No.300
2006.3

ISASニュース 2006.3 No.300 


- Home page
- No.300 目次
- 「ISASニュース」300号に寄せて
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
- ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
- いも焼酎
+ 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

次は、月でインパクトのある写真を!

宇宙探査工学研究系 橋 本 樹 明  

はしもと・たつあき。
1963年、東京都生まれ。工学博士。
1990年、東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。
同年、文部省宇宙科学研究所助手。同助教授を経て、
2005年4月より宇宙科学研究本部教授。
専門は宇宙機制御工学。科学衛星全般の姿勢制御系担当。
月惑星表面探査技術ワーキンググループ主査。
大気球を用いた無重力落下システムの開発も行っている。


 dash   「はやぶさ」による小惑星イトカワへの接近、着陸・離陸で、最も印象に残ったことは何ですか。
橋本: 私は、誘導・姿勢制御の責任者として、連日、管制室に詰めていました。緊張の連続ですべてが印象に残っています。中でも最も緊張したのは、世界中の人たちの期待がかかった88万人署名入りのターゲットマーカを、イトカワ表面に向けて分離するときです。私が分離や撮影のタイミングを決める担当だったんです。
  
 dash   多くの人たちが、「はやぶさ」の活動をかたずをのんで見守りました。
橋本: 今回、「はやぶさ」の状況を随時、速報的に皆さんにお伝えしました。すると、すぐにウェブサイトなどにいろいろな意見や感想が出ていましたね。私たちは、主なサイトをチェックして、こんな書き込みがあったよ、と管制室で話題にしていました。熱心な宇宙開発ファンばかりでなく、たくさんの方々から広報経由で電子メールもいただきました。“88万人が「はやぶさ」をイトカワへ導いた”といわれましたが、確かに、皆さんの注目の大きさがプレッシャーにもなり(笑)、私たちは必死になって頑張ることができました。
  
 dash   「はやぶさ」プロジェクトは、いつスタートしたのですか。
橋本: 私が宇宙研に入った1990年くらいから、将来の工学実験計画として何を目指すか、30歳前後の若手を中心に議論を始めました。そして、まだ誰もやったことのないことをやろうと、小惑星の探査計画を選びました。しかしその後、米国が先にニア・シューメイカー探査機で小惑星エロスを探査しました。二番煎じは面白くないと、私たちは小惑星からのサンプルリターンに挑戦することにしたのです。
  
 dash   ただし、着陸を目指すイトカワの地形は、「はやぶさ」が接近するまで分からなかったわけですね。
橋本: 地上からの観測で、ラグビーボールのような形をしているらしいことは分かっていました。しかし表面の様子などはまったく分かりません。私たちは、ほとんどが砂に覆われていて、ところどころに小石があるくらいだと思っていました。しかし、実際に行ってみると岩だらけ。どこにも着陸できる場所はない、着陸はあきらめようという議論も出たほどです。とても困ったのですが、予想外のこと、驚きがあることが、宇宙開発の面白いところです。私たちは、唯一着陸ができそうな「ミューゼスの海」と名付けた非常に限られた場所にチャレンジして、着陸・離陸に成功しました。世界で初めてのこと、誰もやったことのないことに挑戦するのは、大変ですが、本当に魅力的ですね。今回、私自身とても感動しながら「はやぶさ」の運用に携わりました。
  
 dash   「はやぶさ」のメンバーは、次に、どこを目指すのですか。
橋本: 一つは、「はやぶさ」で実証したイオンエンジンを高性能化し、巨大な薄膜太陽電池と組み合わせたソーラ電力セールで木星を目指そうというグループ。もう一つは、「はやぶさ」の着陸・離陸技術を発展させて、月の北極や南極、山地やクレータ内部などを目指そうというグループがあります。私は月面探査に興味があります。アポロ計画では、月の海と呼ばれる安全な平地に着陸して探査しました。私たちは、着陸や探査が難しく、今まで行けなかった場所へ行きたいのです。そのために、自分で判断して岩を避けるなど、自律的に動ける探査機を検討しています。
  
 dash   宇宙開発に携わるには何が必要ですか。
橋本: 子供のころ、一番好きだったのは電車です。大学では新幹線のモータ制御の研究をしました。新しいことに挑戦するには、さまざまな分野の技術が必要です。大学で宇宙科学や宇宙工学に進まなくても、いろいろな形で宇宙開発に参加して、貢献できるチャンスがあります。また、宇宙開発以外にも魅力的な仕事はたくさんあります。若い人たちは、視野を狭めない方がいいと思います。

 私はカメラにも興味があって、記念電車などの撮影が趣味でした。宇宙研では探査機に搭載するカメラの開発・運用にも携わってきました。火星を目指した「のぞみ」にもカメラを搭載して、月と地球のツーショットを撮影しました。「はやぶさ」に搭載したカメラは、イトカワの科学観測を行うとともに、分離したターゲットマーカの撮影なども行いました。探査機での撮影は、記念電車の撮影と似ています。チャンスは1度。アングルやシャッターチャンスを事前に計算して、ベストショットを狙います。月面でも、皆さんがあっと驚くような写真を撮りたいですね。


#
目次
#
編集後記
#
Home page

ISASニュース No.300 (無断転載不可)