No.298
2006.1

ISASニュース 2006.1 No.298

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その異国文化,初めて口にするスパイスが如し 

宇宙輸送工学研究系 羽 生 宏 人  



水(未知)との遭遇

 2005年11月27日,筆者は7名の技術調査団の1人として,シンガポールを経由してインドのChennai-Madras国際空港に降り立った。渡航目的は,インドで実績のある観測技術の調査と,国際協力に関する会議への出席であり,目的地はインドの南部TrivandrumとBangaloreであった。私にとって初のアジアの旅。しかも,ここは未知の国インドである。

 インドといえば,やはり気になるのが「水事情」である。実は“Delhi belly(デリー腹)”というスラングがあるほど,インドの衛生状態は欧米の旅行者にも恐れられているようである。旅行経験者からは「とにかく水には気を付けて」とアドバイスを受け,用心深い筆者は,スーツケースに下痢止めの薬とペットボトルの飲料水を忍ばせての訪問となった。

 当初,インドの研究者と親交の厚い小山教授を除いては,食に関して戦々恐々といった感じであった。インドの国内線は現在でもフライト時間にかかわらず機内食が提供されているようで,ChennaiからTrivandrumへの空路,たかだか1時間程度でも機内食が出た。実は,これが我々にとって初めてのインドの食事であり,この機内食こそ“Delhi belly”の恐怖におののく“水との遭遇”となった。目前に並ぶ料理とともに小柄なペットボトルが一つ。やはり気になる存在である。まずは,戸惑いながらも恐る恐る料理を口に運ぶ。想像通りカレー風味だが,実にうまい。しかし,やはり辛い。のどの渇きを感じながらふと見渡すと,一行の皆さんは,ペットボトルに記載されている小さな文字から製造場所やら製造日の解読に必至であった。結局のところ,キャップがしっかり閉まっていれば特に問題はないようである。食に関してもさほど神経質になる必要はなく,訪問先でいただいたカレーやそのほかの料理はとても美味であったし,少なくとも筆者は,この旅行中に“Delhi belly”になることはなかった。


インドの宇宙開発

 インドの宇宙開発に関する情報は,中国のそれに比べるとずいぶん少ない。インドには国家機関であるISRO(Indian Space Research Organization)という組織がある。ロケット発射実験を1963年に着手して以来,規模の大小はさまざまだが,実験機を含め相当数のロケットを打ち上げている。ISROは,国内にロケットから衛星およびこれらの関連技術に関する21ヶ所の施設を持ち,インド初の衛星ARYABHATAを1975年にロシアのロケットで打ち上げた。この打上げを皮切りに,自国のロケットでは1979年に衛星RTPを打ち上げ,他国のロケットによる打上げを含めると,これまで大小40機以上の衛星打上げ実績を誇る。特に最近10年を見ると,自国の打上げロケットPSLV,GSLV−MarkI,GSLV−MarkIIでGTO(静止トランスファ軌道)に1.4〜2トン級の衛星を投入しているようである。このように,ロケットの開発をはじめインドの宇宙開発は,まさに熱気に包まれているといった印象であった。我々も負けてはいられないと,決意新たにするところである。


路上に隙(間)はない

 移動のほとんどはISRO側手配の車を利用させていただいたため,苦労することはまったくなかった。彼らの心配りには大変感謝している次第である。移動中,車窓から垣間見る市民生活は興味深く,とても印象に残る。特に交通事情には驚かされた。乗せていただいた車は,さほどスピードが出ていない(出せない?)のだが,それでも懸命に前方の車を追いかけ,クラクションを鳴らし,追い越していく。ほかの車や単車も同じようだ。まるで「邪魔だからどけ」と言わんばかりである。後で聞いたところ,クラクションは「私はここにいるから気を付けて」という意味なのだそうだ。信号待ちでは片側2車線の道路に4台は並んでいただろうか。車同士の間隔はわずかだし,少しでも隙間があれば単車が突っ込んでくる。さらに,その隙間を新聞売りやら雑貨売りが歩いてくるのだから驚きである。信号待ちの路上にはまったく隙間がないのだ。

 彼らの日常に腰を抜かした筆者は,独特な文化のスパイスに刺激され,すっかり魅了されてしまった。今回ゆっくりと目を通すことのできなかったインドの旅行ガイドをあらためてめくり,「次はアレに挑戦だ……」と次の渡航に向け,すでに臨戦態勢なのである。

(はぶ・ひろと) 

ヒゲ対決は完敗です。宿泊先ホテルにて(撮影:荒川 聡)


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