No.297
2005.12

ISASニュース 2005.12 No.297 


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水星でリベンジ

固体惑星科学研究系 笠 羽 康 正  

かさば・やすまさ。
1966年生まれ。工学博士。
1993年,京都大学大学院理学研究科物理学第二専攻博士後期課程退学。
同年,日本放送協会大阪放送局。
1997年,京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。
同年,富山県立大学工学部電子情報工学科助手。
1999年,宇宙科学研究所宇宙科学企画情報解析センター助手。
2001年,惑星研究系助教授。現在,固体惑星科学研究系助教授。
専門は太陽系電波科学,電磁波工学。


 dash   この直前まで運用室にいらしたそうですね。
笠羽: 運用していたのは,8月に打ち上げた小型科学衛星「れいめい」です。そのほかにも,地球磁気圏観測衛星GEOTAILなどを使った観測研究,次の磁気圏観測計画SCOPE,金星探査機PLANET-Cなどにもかかわっています。最も懸命にやっているのは,水星探査計画BepiColomboですね。
  
 dash   BepiColomboは,どういう計画ですか。
笠羽: 地球型惑星で磁場を持っているのは,地球と水星だけです。水星は,地球と直接比較ができる非常に重要な惑星なのです。しかし,水星に行った探査機はこれまでに1機しかありません。しかも周回軌道には入っていない。BepiColomboは2010年代初頭に打上げ予定の日欧共同ミッションで,日本は水星を周回しながら磁場と磁気圏の観測を主に行う水星磁気圏探査機(MMO)を担当します。これまで地球の観測から何となく分かった気になっている惑星の磁場・磁気圏を明らかにする画期的な成果が期待できます。誰も行ったことがない所で誰も見たことのないものを見ることが,宇宙探査では一番重要です。BepiColomboはそれを満たす,非常にやりがいがある仕事です。

 私はこの計画でMMO衛星全体の世話をする役割ですが,個人としては,火星探査機「のぞみ」の観測装置を改良した電場・波動・電波観測装置を金沢大,富山大,京大などの仲間と共同で載せます。私は,宇宙研に来る前に富山県大で助手をしていたときから「のぞみ」の観測装置を作っていました。「のぞみ」打上げの翌年に宇宙研に来てからは,2003年末に運用室でその最後を看取るまでずっと世話をしてきたメンバーの一人です。まさに「のぞみ」につぎ込んできた。しかし,それが全部消えてしまった。いくつかの観測は巡航中に実施できたのですが,我々の装置は火星に到達してから動かすものでしたから。

 成功していたら,私たちの作った「のぞみ」は,火星の大気や水がどういうプロセスではぎ取られ,宇宙空間に逃げたのかを世界で初めて明らかにすることができたはずでした。「のぞみ」でやり切れなかったことの怨念を,私たちの世代は抱えているのです。それを水星でリベンジしたい。「のぞみ」を作ってきた宇宙研内外のさまざまな人たちとその技術は,今,地球・太陽系を目指すさまざまな次世代計画の中核にいます。BepiColomboもその一つ。必ず成功させたい。それがある限り,「のぞみ」は死んでいないと思っています。

  
 dash   電場・波動・電波観測装置からは,どういうデータが出てくるのですか。
笠羽: 特定の周波数のところにピッと線が出ているだけです。最初は,データを見ても何も分からない。でも,ほかのデータと突き合わせたりしているうちに,ある瞬間から見えてくるのです。特定の周波数に非常に強い波が出るということは,それを出す特定の激しい現象がそこでその時に起きているということです。“心眼”が磨かれてくると,そこで何が起きているのかが手に取るように見えてきます。
  
 dash   水星の先は?
笠羽: 太陽系最強・最大の磁気圏を持つ木星に行きたい。でも,日本がそれをやるのは夢だと思っていました。ところが,川口淳一郎先生がポツリと「君たち木星に行きたいの? ソーラーセイルで行けるよ」と。20年後には,地球と水星,木星を直接詳細に比較することによって,今私たちが思っている問題を100%クリアにできるかもしれない。そうなれば,新しく興味深い課題を後世に送り出せると思う。20年後といえば,私はそろそろ定年でしょう。研究者としてフルに働ける間に三つの惑星を比較できるのは,我々の世代の特権ですね。

 もちろん,地球についてもやらなければならないことがたくさんあります。私がなぜ「れいめい」にかかわっているかというと,宇宙研初の小型衛星だからです。SCOPE計画では,立体的に,かつ時間分解能を上げて地球磁気圏を見るために,編隊を組んで観測します。1機1機は小さくしなければなりませんから,小型衛星を作る技術は必須です。それぞれが次につながっている。いえ,つなげていくのです。

  
 dash   磁場・磁気圏の研究は,日本の得意分野ですね。
笠羽: 世界のトップにようやく近づいてきたというのが現在の状況です。この分野で日本が認められたのは,やはりGEOTAILの成功が大きいですね。GEOTAILは,米国との共同ミッションです。1984年のハレー彗星国際共同探査が一つのきっかけとなって,米国から一緒にやりましょうと声が掛かったのです。そしてGEOTAILによって「日本もやるね」と一目置かれるようになり,今度はヨーロッパからBepiColomboを一緒にやろうとの申し出があった。先人たちが作ってくださった土台の上に私たちがいる。私たちも,今やっていることを成功させていかなければならない。それが,また次の世代の新たな土台となっていくと思います


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