|
8月に幕張メッセで行われた「ペンシルロケットフェスティバル」では,ペンシルロケットの水平発射の再現実験を担当されていましたね。
|
八木下: |
再現実験をやると聞き,ぜひ参加したいと思ったのです。ペンシルロケットの水平発射は,50年前に糸川英夫博士が行った日本で最初のロケット実験です。宇宙研は,そこから始まった。その実験を宇宙研の若手だけで再現しようという試みは,魅力的でしたね。
イベントまで3ヶ月を切った5月,若手11人が集まって「ペンシル再現チーム」を結成し,まずは50年前の論文や資料を読むことから始めました。ペンシルロケットは長さがわずか23cmで,発射装置もシンプルです。燃焼時間がたった0.1秒程度というのは,びっくりしましたね。しかし,50年前のペンシルロケットは,我々が思っていた以上に素晴らしい技術でした。しかも,限られた条件の中でデータをたくさん取るために,上に向かってではなく水平に飛ばすことが有効だったんだなとあらためて思いました。
再現実験自体は,特別に高度な技術を必要とするわけではありませんが,多くの人が見守る中での失敗は絶対に許されません。あきる野実験施設や能代多目的実験場で,念入りに予備実験を繰り返しました。
|
| |
|
4000人を超える来場者の中で行われた本番はいかがでしたか?
|
八木下: |
私は,点火管制班として発射のカウントダウンを担当しました。それはもう,ドキドキでしたよ。とにかく「成功してくれ!」と祈りながらカウントしていました。でも,カウント中は時計から目を離せないので発射の瞬間はどうしても見ることができず,顔を上げたときにはもう飛び終わっていますから,成功したかどうか分かりません。発射から一瞬,間があって,周りの声でようやく成功したと分かる。3回とも成功し,本当によかった。予備実験より本番の方がうまくいったんじゃないかな。
宇宙研の根源となる技術の再現に参加できたことは,私自身,非常に価値ある経験となりました。今回のイベントは,50年前を振り返るだけでなく,次の50年へつなげるという大きな目的もありました。宇宙研は,自分たちの手でロケットを作り,飛ばしてきた。それは今も,そしてこれからも変わらないことを,再現実験を通して多くの人,特に子供たちにアピールできたと思います。
|
| |
|
現在は,どのような仕事をされているのですか。
|
八木下: |
主にロケットの推進にかかわる実験をしています。ペンシルロケットやM-Vロケットは固体の推進剤を使う固体ロケットですが,私が今メインでやっているのは液体ロケットの実験です。
|
| |
|
なぜ液体ロケットを?
|
八木下: |
宇宙研に入った年,実験で液体酸素を見せてもらったのです。液体酸素は−180℃もの極低温ですから,じかに見ることができる機会はそう多くありません。液体酸素は,とてもきれいな色をしているんですよ。コバルトブルーというのでしょうか。まず,液体酸素という極低温の推進剤にすごく引かれたのです。その後すぐ,H-IIロケットのLE-7エンジンの展示を見て,さらに液体ロケットに引き付けられました。あの複雑な配管,これほど繊細に作られたエンジンからあの大きなロケットを宇宙まで飛ばすエネルギーが発生する。なんてすごいものを作っているのだろうと。
宇宙研の液体ロケットにはRVT(再使用ロケット実験機)があります。ぜひ液体ロケットをやりたいと思い,RVTの実験にも参加させてもらっています。将来,日本がもし有人宇宙飛行を行うとしたら,それは液体ロケットでしょう。だから,今から液体ロケットの開発に携わり,技術を身に付けておきたいという思いもあります。
|
| |
|
新しい液体ロケットの研究・開発も進んでいるのでしょうか?
|
八木下: |
N2O(亜酸化窒素)とエタノールを推進剤とする新しい液体ロケットを作ろうと,基礎実験を行っています。これは新しい推進系で,小型ロケットの主推進や衛星の姿勢制御用に適用できないかと考えています。衛星の姿勢制御は現在,NTO(四酸化二窒素)とヒドラジンを使っていますが,これらは有毒です。それに変わる無害な推進剤として,N2Oとエタノールを使えるのではないかと思います。将来の推進系を考え,研究・開発を引っ張っていくのは研究者です。私たち技術者は縁の下の力持ちとなり,実験を行ってデータを出し,技術的な課題を一つ一つ解決していく。そうすることで初めて,新しい推進系が実現するのです。
推進系の実験をする上で必要な火薬や高圧ガスの取り扱いには,資格はもちろん,熟練が必要です。私はもっと経験を積んで,将来的には大きなプロジェクトを担えるようになりたい。そのためにも,現場に出て自分の手で物に触って実際に起きる現象を体感し,何か問題にぶつかったときに自らそれを解決する力を養うことが大切だと思っています。現場には紙に残せない多くのノウハウがあり,それらを自分のものにすることができますから。そのスタンスは,ずっと持ち続けていたいですね。
|