No.292
2005.7

ISASニュース 2005.7 No.292 

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異文化との遭遇・融合と創出 

折 井 武 NEC東芝スペースシステム株式会社 

故郷の風景。海岸から立山連峰を望む。(写真提供:高岡市)

 山と海に囲まれた富山の片田舎で育ち,東京オリンピックが開催された昭和39年,18歳で初めて東京に出てきたときは,見るもの聞くものがほとんど未知との遭遇であり,異文化の初体験であった。驚きでもあり,新鮮でもあり,言いようのない不安を抱いたことを思い出す。  人工衛星を作る仕事に携わりたくて,まず東京に行って勉強しようと決心したことが,昨日のように思い出される。

 最初は言葉に苦労した。特にアクセントや言葉遣いの違いが気になり,一刻も早く標準語(東京弁?)がしゃべれるようにと努力した。昭和43年,当時NECが人工衛星の開発を担っている企業と聞き,宇宙開発本部に入社した。

 以来37年間,その大半を衛星の設計・製造・試験に携わってきた。ささやかな体験を通して,異文化との遭遇・融合と創出について述べさせていただきたい。


結婚について

 言葉になまりがあったのと控えめな性格が災い(幸い?)して,なかなか友達ができなかったが,言葉なまりを注意してくれる友人(妻)と知り合うことができたおかげで,徐々に東京弁に近い言葉遣いができるようになっていった。すると程なく,不安が解消され,違和感もなくなり,楽しく生活できるようになった。

 東京生まれの妻とは,価値観を除けば,ものの見方・生活スタイル・食べ物などなどが異なり,戸惑うことも多々あった。だが,お互い尊重し合い続けることができたおかげで,違いを認識しつつ理解を深められるようになって,新しい生活基盤を作り上げることができた。


会社統合について

 平成13年,NECと東芝の宇宙開発事業部門が一緒になり,NEC東芝スペースシステム(株)が発足した。それぞれの出身会社の設計部門,製造部門,事務部門,営業部門の人間が机を並べることになった。今までそれぞれ異なった企業文化で業務をこなしてきた人たちが,ある日を境にして,顔を付き合わせて一緒に仕事をする事態になった。

 企業文化はそれなりの長い歴史的遺産や社風の影響を受けて形成されてきたものであり,研究・開発手法,製造・試験手法,文書体系などは必ずしも同一ではない。統合により,痛みを伴うこともあり得るが,むしろ多様性や強みを増すことができる。企業はその活動目的が明確であり,統合することで徹底的にお互いを知り,理解しかつ尊重し合って,企業理念に適合する新しい企業文化を創出し,社会に貢献し続けられるように,日夜努力している。


JAXAについて

 JAXAは平成15年,基礎的な科学研究から実用的な研究開発までを一貫して行う独立行政法人として発足した。宇宙3機関がこれまでに培ってきた異なった文化を有機的かつ効果的に活用しながら事業を推進し,発展していくことが期待されている。大切なことは,お互いがこれまで培ってきた文化(実績・経験・能力・達成手段・特長など)を真に尊重し,理解し合えることではないかと思っている。もう一つ重要なことは,基礎的な科学研究から実用的な研究開発までを実行するために,それぞれの目標を達成できる,柔軟でかつ多様なプロセスの構築ではないだろうか? その実現に向けて,官はもとより民も一体となって,多くの困難を乗り越え,努力してゆかねばならない。

 現在,宇宙開発発展のため,関係省庁・JAXA・関係公益法人・学校関係者など多くの方々が献身的に努力されている姿を拝見している。日本の宇宙開発計画が着実に進められ,その結果得られる成果は,人類社会の継続的発展にますます大きく貢献してゆくものと信じている。

(おりい・たけし) 


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