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No.292 |
<宇宙科学最前線>ISASニュース 2005.7 No.292 |
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JAXA長期ビジョンと宇宙科学
藤 井 孝 藏,高 橋 忠 幸,山 川 宏
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宇宙科学のトップサイエンスセンターを目指す長期ビジョンは下記の5つの大項目から成り立っている。1 安全で豊かな社会の実現 2 知の創造と活動領域の拡大に向けて 3 自在な宇宙活動能力の確率に向けて 4 宇宙産業の成長に向けて 5 航空産業の成長と将来航空輸送のブレークスルーに向けて 項目2は,「宇宙観測・太陽系探査」と「月の探査と利用」という二つの中項目から成る。輸送系などJAXA全体にかかわる研究・開発を別として,宇宙科学は項目2に入る。 宇宙科学プロジェクトは必ずしも期待される観測結果が具体的に設定できるものではなく,可能な限りの観測システムの搭載によって,結果として“Big Surprise”となるような成果を期待するものである。ビジョンという枠に押し込めるのはもともと難しく,これまでの宇宙科学を意識しつつ10年後,20年後の姿を示す,という戦略的な記述にはなかなかたどり着けなかった。また,私たちが長期ビジョン策定に参画するに当たっては,「JAXAとして宇宙開発をどう進めていくか」と「科学者・研究者として宇宙科学をどう進めていくか」という二つの側面から文章を作らなければならなかった。時には自己矛盾に陥らざるを得ないこともあり,作業は容易ではなかった。 宇宙科学は大学共同利用で推し進めるものであるため,ISASにおけるさまざまな集まりの機会に議論したばかりでなく,学術会議の各研究連絡委員会や各コミュニティにおいても,可能な限り問題意識を共有してもらうよう努めた。特に,将来の宇宙科学を方向づける言葉を選ぶに当たっては,大学の若手研究者を集め,一般の方にとって分かりやすく,魅力的でかつ学問の本質を損なわないような言葉を探す議論を,夜遅くまで行った。 結果として,宇宙科学全体を「宇宙観測」と「太陽系探査」に分けることとし,それら全体を通じて日本を宇宙科学のトップサイエンスセンター(拠点)とすることを目指す,という記述を選んだ。「トップサイエンスセンター」の意味するところは,組織という“箱もの”を作るということではなく,世界の宇宙科学研究者が「ここで研究がしたい」と集まってくるようなものをイメージした表現である。また,将来においては,宇宙観測と太陽系探査のみならず,広い意味での人類の宇宙における活動を展開する拠点として,ラグランジュ点に「深宇宙港」の機能を持たせることにした。
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宇宙観測,太陽系探査の目指すところと,そこに至るロードマップは,図1を参照いただきたい。宇宙観測は宇宙の正体の解明を目指し,太陽系探査は生命の可能性を探る。その実現に立ちはだかる高いハードルを先進工学技術が切り進む,という構図になっている。これ自体は特段目新しいものではない。参考までに,最終の長期ビジョン本文の付図「将来の宇宙観測・太陽系探査(イメージ)」を図2に示す。また,筆者の一人である高橋がまとめた「JAXAにおける宇宙科学の長期ビジョン―総論―」と題した資料と,その他の補足資料を,しばらくの間ISASニュースのウェブサイトに置くので,機会があれば一読していただけると,ビジョンのバックボーンを理解していただくことに役立つと思う。
なお,月に関しては「利用」という側面が期待されること,また米国新宇宙政策との対応などから記述を分け,探査も含めて別項目での記述となっている。
長期ビジョン策定の二つの成果半年間,副理事長から「寝る時間があると思うな」と叱咤激励され,長期ビジョン策定作業に従事してきた。長期ビジョンの中身の評価とは別に,長期ビジョン策定には二つの成果があったと思っている。一つ目は,策定作業を通じて,ほかの本部の若い人たちがどんなことを考えて研究・開発業務をこなしているか,互いの理解が深まったことである。検討委員会のもとに組織された作業チームは30〜40歳代の若い職員を中心に構成され,半年にわたって週に何回も,厳しいが意味のある議論が交わされた。このことは“One-JAXA”に大いに貢献したと思うし,ここでの議論が参画したメンバーの今後に良い影響を与えるに違いない。 二つ目は,議論を巻き起こす土壌が作れたことである。長期ビジョン策定の過程において,ISAS全体討論,理学委員会,工学委員会,運営協議会,宇宙科学評議会,宇宙科学シンポジウム,システム計画研究会など,公式・非公式の集まりにおいて,たくさんの議論があった。今後もJAXA長期ビジョンについて,時々に議論が巻き起こるだろう。一部に「選択も集中もされていない総花的内容」という批判もあるが,そのための基準が整理できたことは,それ自体一つの成果と考えている。 JAXA内での選択と集中は必要だが,JAXA予算内で“ゼロサムゲーム”に終始することなく,全体を広げる努力が今期待されている。いろいろな議論はあったが,JAXAが長期ビジョンによりその方向性を示すことによって,宇宙開発・航空研究への理解が進み,結果としてJAXAも含めた宇宙関連予算が増えていくのであれば,宇宙科学にとってもプラスとなることが期待される。 長期ビジョンは何度も見直すものである,といわれている。今後,これを柱にしつつ,時代の変化に応じて見直しを図っていくことになる。記載されたすべてをこなせるのか,それとも明確な選択と集中が起こるのか,結果として今回のJAXA長期ビジョン策定に意味があったかどうかは,今後のJAXA経営に委ねられた。同時に私たちも,自らこれを意味あるものにする努力をしなければいけない。 宇宙科学は,JAXA宇宙科学研究本部の大学共同利用という性格を活かし,国内外の各分野の研究者一丸となって進めるものである。長期ビジョン策定に当たっては,上記各種委員会をはじめJAXA外の方々にも協力いただいた。この場を借りて,皆さまに感謝の意を表したい。
(ふじい・こうぞう,たかはし・ただゆき,やまかわ・ひろし) |
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