No.292
2005.7

ISASニュース 2005.7 No.292

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インドからノルウェーへ 

宇宙プラズマ研究系 小山 孝一郎  


深夜6時間のインド高速道路行

 まず南船(北馬)。インドにあるアジア太平洋地域宇宙科学技術教育センター(Center for Space Science and Technology Education in Asia and the Pacific, affiliated to UN)のAdvisory Committee(AC)に出席すべく5月8日,成田を5時間遅れて飛び立った飛行機は,現地時間夜11時を過ぎてニューデリー空港に着いた。空港に着けば出迎えがあるだろうからと,会議の開かれるRemote Sensing CenterのあるDehradunがどこにあるか気にも留めず,空港出口を出た。迎えに来ていたインド宇宙研究機構(Indian Space Research Organization, ISRO)職員の耳を疑う言葉に,ひどく落胆した。「ここから車で6時間。あなたは車内でゆっくり寝て行ける」

 ニューデリー市街を過ぎて郊外に出るころ,ISRO職員は車を降り,そこから先は運転手と二人になった。対向車の明かりが時々暗闇に浮かび上がる。砂ぼこりのインドの高速道路を走っているうちに,いつしか寝入ったらしい。運転手の「ホテル」の声に起こされ,時計を見ると朝5時過ぎである。8時に起こしてくれるようにフロントに頼み,たちまち眠りについた。


インドの教育センターのアジアへの貢献

 アジア太平洋地域宇宙科学技術教育センターは,アジア各国の修士号取得者に対して,インドで9ヶ月間の講義と研修を行い,しかる後に本国において指導教官のもとで1年間研究させるプログラムを有し,旅費,生活費はセンターより支給される。リモートセンシング,衛星気象,衛星通信および宇宙科学の4コースに分かれている。ここDehradunではリモートセンシングのコースを受け持ち,衛星気象,衛星通信および宇宙科学の3コースはAhmedabadにあるSpace Application Center,Physical Research Laboratoryが受け持っている。それぞれのコースの詳細な内容は,国内の専門家により吟味され設定されている。ACのメンバーは,個人の立場でコースの運営に対して助言する。センターの詳細についてはhttp://www.cssteap.org/を参照されたい。

 会議は9時から始まった。Small worldの言葉通り,アジア太平洋地域宇宙機関(APRSAF)やその他で数回お会いしているインドネシア宇宙航空研究所(National Institute of Aeronautics and Space, LAPAN)のM氏が,私の隣の席であった。国連OOSA(Office for Outer Space Affairs)のLee Alice女史のchairのもと,所長Hansen博士の歓迎スピーチ,センターの概要説明に続いて,リモートセンシング,衛星気象,衛星通信,宇宙科学のコースダイレクターによる1年間の活動の説明があり,1時間の昼食を挟んで,午前の報告に対する質問,コメントおよび情報交換と続いた。ブラジル,モロッコなどにある同種のセンターと違い,インドのセンターのアジアへの貢献を,委員諸氏は大きく評価した。会議は16時に終わった。ACの議事録はISRO総裁Nair氏を議長とするGoverning Boardに11日に公式に送付されたとのことである。

会議のコーヒーブレイク。中央に立っているのが議長のLee女史。

中国・インドの台頭と日本への期待

 会議の中で,中国が同じようなアジア地域教育センターを作りたい旨,国連に打診してきているとの情報が伝えられた。これに対して,多くの委員が大きな衝撃を受けたもようだ。コーヒーブレイクでM氏は,このことをJAXAに伝えるよう私に言った。その夜,開かれた夕食会で,氏は再びこのことに触れた。

 M氏に限らずアジア各国の多くは,宇宙開発においても日本のアジア地域でのリーダーシップ発揮に期待をしている。しかし一方で,今や中国,インドに遅れ,すでにアジア地域第3位になってしまった日本に対する期待が望み薄かもしれないと感じ始めている。  夕食後,豪華なホテルの一室に一人,中国,インドの急速な台頭に比べ,世界で4番目に自力で人工衛星を打ち上げた輝かしい日本の歴史と1999年をピークにまだ予算が減り続ける現状を思い,私の心は暗く沈み込んだ。

 現地時間の10日早朝,ホテルのレストランでM氏は,中国の教育センター構想に三度触れた。氏が大きな衝撃を受け,いかに日本へ期待しているかと考えざるを得ない。再び6時間のインド高速道路行を経て,Air Indiaの人となり,11日の朝7時に成田へ着いた。


ノルウェーへ

 さて,次こそ西走(東奔)である。成田空港でシャワーを浴び,インドからの帰国4時間半後の11時半,ノルウェーに向かった。ノルウェー独立100年を記念した日本・ノルウェー極域科学ワークショップに出席するためである。だが,すでにページも尽きてしまったので,文字通りの「東奔西走」については別の機会に譲り,拙稿を閉じることにする。

(おやま・こういちろう) 


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