No.290
2005.5

ISASニュース 2005.5 No.290 

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風土と科学技術 

財団法人リモート・センシング技術センター 川 崎 雅 弘 


 今年の元旦は,娘の転勤もあって,京都で家族とともに迎えた。いろいろなことが重なり,慌ただしかった家族にとって,久々のゆったりとした年末年始となった。

 元日の朝は大晦日の雪もやみ,屋根や街路樹にうっすらと積もった雪に初日が映えてまぶしいくらいであった。雪の金閣寺をということで,朝食もそこそこにホテルを出た。幸いにも人出もまばらで,屋根に雪を頂き金箔に輝く舎利殿,薄く雪氷に覆われた鏡湖池,夕佳亭からの庭全体の眺めなどをゆっくりと鑑賞することができた。

 その後,上賀茂,下鴨両神社での初詣でを済ませ,足に任せて洛北,洛中の名園を訪れた。初詣ででにぎわう両神社とはうって変わって,どこも人に煩わされることなく,雪もまばらな庭園を幸いにもマイペースで巡ることができた。花や新緑に彩られた時季とは違ったいわば素顔の庭園とでもいえようが,元旦という雰囲気の中で何か心が洗われるような気分に浸ることができた。

 いずれの庭園も,寺域という外の世界とは隔絶された空間の中で,建物に配しての池,木々,奇岩奇石などが一見無造作に置かれているようだ。しかし,そこに立つ自分もまた庭の一部になったような気さえ起こさせ,自分を山水画でいわれる点景人物に擬するような思いであった。欧州でも多くの有名な城館とその庭園を見てきたが,広壮雄大な規模の平面に,木々や彫刻などが対称性をもって幾何学的に整然と配されているのとは,まったく趣を異にしている。欧州の場合は,そこに立つ人は庭を見る立場であって,庭の一部を構成する要素ではない。私自身,庭に溶け込むような気分を味わったことはなかったように思う。

 このようなことを考えているうちに,ふと,学生時代に読んだ和辻哲郎の『風土』の中の日本庭園についての記述を思い出した。その大意は,池,大小の石,さまざまな庭木,これらが季節の移り変わりに応じて移り変わりつつ,全体として調和を保つまとまりを作り出していなければ優れた庭とはならない,というようなものであったかと思う。その点では,日本の名園には四季それぞれの美しさがあるといえよう。

 『風土』は,つとに知られているように,全体を通じて文明・文化を人と自然風土との相互作用あるいは共生関係の「あらわれ」として,日本を含むモンスーン型,欧州の牧場型,砂漠型の3つの風土に大別して比較検証している。その上で,国際交流が活発化する昭和初期の時代背景の下で,地球上の諸地方の文化がさまざまに異なる特徴を生かすことによって人類の文化に貢献することができるとの趣旨を説いている。

 翻って,我が国の科学技術の世界を見ると,急速に進展するグローバリゼーションの中で,日本のアイデンティティを問う声が強い。一方,現実には,明治以来の西欧近代科学技術の導入という「くびき」から抜け出せない面があるだけでなく,政策では西欧型への傾斜がいっそう強まっているようにさえ思える。文部科学省科学技術政策研究所の招きで昨年末,一次,二次科学技術基本計画のレヴュウに参画した英国マンチェスター大学のLuke Georghiou教授は,科学技術政策はそれぞれの国の社会・風土に根差したものであり,社会風土の異なる国で導入しても,必ずしも同じ効果は期待できないのではないかと評していた。

 このような中で,JSTにおける「社会技術研究システム」の進展や,「科学技術社会論学会」の発足など,科学あるいは技術と我が国社会との関係を,学問として解明しようとする動きが活発化している。これらの活動を通じて,我が国の科学技術の社会風土的性格が歴史的にも解明され,日本の社会風土と共存する日本発の科学技術が世界をリードし,世界の文明に貢献していくことを切に期待したい。

雪の金閣寺(筆者撮影)

(かわさき・まさひろ) 


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