No.286
2005.1

ISASニュース 2005.1 No.286 


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風とともに宇宙へ

技術開発部基礎開発グループ 入 門 朋 子  

いりかど・ともこ。
1973年,愛知県生まれ。
2002年,名古屋工業大学大学院都市循環システム工学専攻修了。
同年,宇宙科学研究所技官。
風洞設備の管理・運営と高速流体力学の基礎実験を行っている。


 dash   宇宙研に入って3年目とのことですが,なぜ宇宙にかかわる仕事を選んだのですか?
入門: 子どものころから宇宙にとても興味がありました。ちょうど惑星探査機「ボイジャー」が木星や土星,天王星をめぐって,次々と写真を送ってきていたころで,それ以来,宇宙へのあこがれをずっと持ち続けていたのです。
  
 dash   大学選びでも宇宙を意識しましたか。
入門: はい。宇宙にかかわる仕事をするのなら,工学系に行ってロケットを作るか,物理学系に行って天文学をやるか,どちらかだろうと考え,最終的に名城大学の交通機械学科(現・交通科学科)に進みました。しかし,1学年180人のうち女性は3人。この環境に慣れるのは大変でしたね(笑)。まあ慣れてしまえば,飛行機の設計をしたり実践的な授業が多く,楽しく有意義でした。特に計算流体力学(CFD)に興味を持ち,大学院でもその研究をしました。
  
 dash   計算流体力学の魅力は?
入門: 計算流体力学とは,流れの様子をコンピュータによって計算してシミュレーションするものです。もともと私は,速いものや強いものが好きでした。計算流体力学は速いものを設計するときに必要な技術である,というのも興味を持った理由の一つですね。自動車や航空機も計算流体力学を利用して設計されています。

 流体力学というと難しそうですが,実は私たちも普段感じている世界なのです。例えば,自転車に乗っていると風圧を感じますよね。私は自転車通勤なので,「あ,流れている!」と流体力学の世界を実感しながら毎日走っています。

  
 dash   現在は,どういった仕事をしているのですか?
入門: 高速気流総合実験設備,つまり風洞の運営・管理を行っています。風洞とは,速い風を作り出して模型に当て,空気の流れや圧力分布を調べる装置です。宇宙研には超音速風洞(マッハ数1.5〜4.0)と遷音速風洞(マッハ数0.3〜1.3)があり,ロケットなどの模型を使って実験を行い,その結果を機体の設計に活かしています。宇宙研の風洞は,大学共同利用施設として大学の学生たちも使います。学生が使うときには,私も実験を手伝います。
  
 dash   これまでで印象的なできごとは?
入門: 衝撃波を見たときですね。学生がシュリーレンという方法を使った実験をしていたとき,「見えます!」と教えてくれました。流れる空気の速度によって,空気の密度が変わります。空気の密度が変わると光の屈折率も変わるので,フィルターを通して撮影すると流れをカラーで可視化することができるのです。音速を超えたときにできる衝撃波は,ほかの部分と比べて密度が極端に高いので,光の屈折率がそこだけ大きく変わります。シュリーレンで衝撃波を可視化できるというのはもちろん知っていますが,実際に自分の目で見えたときは感動しましたね。風洞のガラス窓からのぞくと,衝撃波の所で後ろの風景がスパッと途切れて見えるんです。
  
 dash   これからの夢は?
入門: まだ3年目ですから,風洞について覚えなければならないことがたくさんあります。風洞は機械的な部分,電気的な部分など,さまざまなものが絡み合った実験装置です。まだまだ奥が深いですね。知識だけでなく,体力も付けなければなりません。風洞実験で使う模型や計測器はとても重い。休日にはジムに通って鍛えています。

 将来的には,風洞を知り尽くし,その上で実験や計算流体力学の研究もやってみたいですね。そして,人が月や宇宙ステーションで生活することにかかわれたら,と思っています。人が宇宙に行くためには,地球の大気圏から飛び出さなければなりません。安全に,そして経済的に宇宙の外に行くためにも,風洞実験はとても重要です。そして,「ボイジャー」のような探査機にもかかわることができれば……。夢は,いろいろありますね。


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