VSOPのプロジェクトに参加してから,ほとんどの外国出張がアメリカの中西部(NRAO VLBAの本拠であるニューメキシコ州のソコロとJPLのあるパサデナ)であった。さすがに初めてのときはいろいろとワクワクしたが,回を重ねるごとにそのような気持ちも薄れてきた。「はるか」が打ち上がった後は,しばらくは外国に行く余裕もなく,日本にこもってせっせと衛星の運用をしていた。中国をはじめとする多くの国々と協力をしていたが,衛星の打上げ前後の本当に忙しい時期には,国際会議の多くは日本で行われていた。そのようなこともあり,日本以外のアジアの国に行くのはこれが初めてであった。
活気ある上海へ
成田を飛び立つと,飛行機は日本列島に沿って西に進む。長崎を過ぎたところで,「着陸体勢に入るので高度を下げる」とのアナウンスがあった。日本からまだ出ていないのに,もう着くのである。空港から上海市街にある上海天文台まで車で1時間くらい。さらに30分くらいで,VLBI観測を行う上海天文台の25mアンテナに到着する。内之浦のアンテナよりも早く着いてしまうのである。とても近い! 航空運賃(時価)もほとんど変わらない。
『三国志』や『十八史略』などの歴史書を好んで読んでいたために,中国の長い歴史や広大な国土にあこがれる面もある。一方で,国の制度が日本と違っているとか,行くのにビザが必要であったりと,なかなか遠い(行きにくい)国というイメージがあった。ところが,昨年の9月より短期間の滞在の場合はビザが不要になり,だいぶ行きやすくなった。さらに今回上海を訪れて(上海が特別なのかもしれないが),特に不自由もなく滞在できた。最近は,市内と空港を結ぶリニアモーターカーが開通していて,高速道路も整備され,高層ビルがどんどん建設されていて,今までの自分の認識を改めさせられた。
上海の街は今,非常に活気がある。車や人がとてもアクティブに動いていて,古い町並みもある反面,これからどんどん発展していこうという雰囲気も大いに感じた。歴史的に見ても中国は衰退期と繁栄期を繰り返しており,清朝末から現在の中国になるまでを衰退期とすれば今,繁栄期に向かっているところなのだろう。
上海天文台
今回の上海天文台訪問の目的は,日本のVLBI計画と中国のVLBIグループとの協力関係について情報交換をすることである。VSOP計画で「はるか」と共同で観測を行った上海天文台の関係者と,VSOPやそれに続くVSOP-2計画の状況および今後の協力関係について意見交換を行った。VSOP,VSOP-2と同様に地上VLBI計画として中国との共同研究を重要視している国立天文台のVERAプロジェクトからも,VERAプロジェクトマネージャの(VSOPでも主力だった)小林先生が一緒に意見交換を行った。
上海天文台は,国立天文台のようにさまざまな分野の天文学者が研究をしており,その中に電波天文学,VLBI観測を専門とする研究者がいる。宇宙研にも客員教官として滞在され一緒に研究をしていた沈(シェン)博士や,VSOPの運用でいろいろとお世話になっている洪(ホン)博士が,VLBIグループの中心として活躍している。上海天文台が運用している25mアンテナは,VSOP計画によるスペースVLBI観測に参加した世界中の電波望遠鏡の一つである。最後までVSOP観測に付き合ってくれている電波望遠鏡である。沈博士はVSOPのデータで研究を行っており,彼の指導する大学院生は,VSOPのアーカイブデータを使って研究をしている。ここでもVSOPファミリーが研究活動を行っているのである。