No.278 |
ISASニュース 2004.5 No.278 |
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中層大気観測衛星「おおぞら」井 上 浩 三 郎「おおぞら」
大気については,それまで地表に近い高度10kmから100km程度までの中層大気の観測と研究が取り残されていました。1970年代を経て,中・上層大気の観測が地上からのリモートセンシングで行われるようになり,中層大気中の大気組成や温度の測定が可能になってきました。このようなさまざまな手段による観測に室内実験やデータ解析などを総合して,国際的に中層大気の研究を進めようという計画が各国の研究者間で検討され,「中層大気国際協同観測計画(MAP)」が1982〜1985年の間実施されることになりました。 「おおぞら」は,そのMAP計画への積極的な協力の一環として,全地球的な中層大気の観測を行うために計画されたものです。データ受信は,内之浦(KSC)だけでなく,南極の昭和基地とスウェーデン北部のエスレンジ基地でも1日5回行われました。これは,データ取得率を上げるためと,オーロラ現象の解明に好都合なことから選ばれたものです。
中層大気の観測に大きな成果後述するように,打ち上げてすぐバッテリーの劣化というアクシデントに遭遇しましたが,関係者の粘り強い努力によって4年にわたり多くの貴重な観測データを取得し,中層大気の観測で貴重な成果をもたらしました。
再び残留推力の恐怖第3段モータとの分離5秒後に,衛星が約1.3Gの衝撃を受け,それ以降半頂角約2.5度のコーニング運動が生じました。これは,おそらく第3段モータがその残留推力によって衛星に接近し接触したため,と推測されました。さらにこのとき,衛星は残留ガスによる汚染(コンタミ)を受け,太陽電池パドルおよび外被表面の分光特性が変化したので,その後の運用に重大な支障が生じました。
高温によるバッテリーの容量低下軌道投入直後の全日照とコンタミによる衛星表面の分光特性変化が重なり,予想をはるかに超える高温にさらされたバッテリーの容量が,定格8AHに対し1.6AHまで劣化する不具合が発生しました。この劣化により衛星の運用が大変な制約を受けるため,地上でのシミュレーションなどいろいろとその回復方法を試みましたが,有効な方法は見つかりませんでした。衛星運用管理を担当された中村良治先生は「容量が5分の1に減少したバッテリーが過放電にならないように,残存容量を注意深く計算しながら観測装置をオン・オフして運用しました」と,当時の苦労を語っています。
役割を終えて太平洋上空で消滅「おおぞら」は,日本時間1988年12月26日14時11分53秒(周回数2万6799),KSCでの受信を最後に,再びその上空に帰って来ることはありませんでした。計算によれば,同日の日本時間23時39分,ニューギニア上空の高度90kmにおいて消滅したと思われます。
(いのうえ・こうざぶろう) |
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