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電波天文衛星「はるか」で観測をしているそうですね。
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EDWARDS: |
電波は波長が長い光(電磁波)なので,1基の電波望遠鏡ではあまり細かい像は得られません。しかし,世界中の電波望遠鏡で同じ天体を観測してデータを記録し,後で時刻を合わせて観測データを合成すると,高い解像度が得られます。望遠鏡同士の距離を基線と呼びますが,基線が長いほど高い解像度を得ることが可能となるのです。
宇宙研では,1997年に「はるか」を打ち上げ,地上にある世界中の電波望遠鏡と協力して最長約3万kmの基線を実現し,波長18cmと6cmの電波を観測しています。VSOPというプロジェクトです。波長6cmの観測では,例えば私の母国オーストラリアから日本にある1円玉が見えるほどで,これはハッブル宇宙望遠鏡と比べても150倍も高い解像度(0.0003秒角)です。
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どんな天体を調べているのですか。
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EDWARDS: |
銀河には,中心部の狭い領域が異常に明るく光っているものがあります。その領域は「活動銀河核」と呼ばれ,中心に太陽質量の1000万〜100億倍という超巨大ブラックホールがあると考えられています。活動銀河核は,宇宙の中で最もエネルギーが高く,激しい現象が起きている場所の一つです。そこで何が起きているのか知りたいのです。
超巨大ブラックホール自体は直接見えませんが,そこに物質が激しく流れ込み,一部の物質はジェットとなって噴き出しています。私たちはVSOPで,そのジェットを詳しく観測しています。例えばジェットの根元の明るさが,初めて分かってきました。5兆度以上の温度に相当する明るさのものも見つけました。でも理論的に考えると,そんなに高温であるはずがありません。ジェットが私たちの方向へ噴き出していて,見かけ上,異常に明るく見えているのだと考えられます。また,ジェットの根元では物質が常に一様に噴き出しているのではなく,らせんを描いたり,途中で折れ曲がったり,時々高エネルギーのプラズマの塊が噴き出しているらしいことも分かりました。しかし,なぜそんな現象が起きているのか,まだ誰にも分かりません。
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日本で研究することになった経緯は?
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EDWARDS: |
オーストラリアのアデレード大学で宇宙線の勉強をしました。地球大気に飛び込んでくる宇宙線のほとんどは陽子ですが,エネルギーの高いガンマ線もやってきます。そのガンマ線の研究でPh. D.を取りました。その後,ポストを探しているとき,日本の文部省の奨学金のことを知りました。指導教官に相談すると,「宇宙線のいろいろな計画があるので,良いと思いますよ」と,日本の先生を紹介してくれました。1987年から3年間,東京大学の宇宙線研究所で研究を行いました。
1990年にアデレード大学に戻り,ガンマ線が大気に衝突するときの光を観測する日本とオーストラリアの共同プロジェクトCANGAROO(カンガルー)に参加しました。活動銀河核が出す高エネルギーのガンマ線の観測を行っていたのです。あるとき,電波望遠鏡の観測の手伝いをする機会がありました。そこで「あなたは日本での経験もあるので,宇宙研に行ってVSOPプロジェクトに参加してみたらどうですか」と誘われました。解像度の高いVSOPで活動銀河核を観測してみたいと思い,1994年に宇宙研に来ました。
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現在,宇宙研で唯一の常勤の外国人研究者ですね。
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EDWARDS: |
VSOP室の先生たちは英語がうまいのですが,学生との会話では,自然な英語ではなく“国際的な英語”を話さないと通じない場合もありますね。でもアメリカから宇宙研に来たポスドクには「日本で,オーストラリア語を勉強しました」と言われました(笑)。
オーストラリア人の妻との間に2人の息子がいます。上が5歳になるので,日本で学校教育を受けさせるかどうか決める時期です。家族のことも考えなければいけませんし,研究者として宇宙研でやりたい夢もあります。
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その夢とは?
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EDWARDS: |
NASAが2007年ごろにGLAST(グラスト)というガンマ線天文衛星を打ち上げる予定です。一方,私たちは現在,次期電波天文衛星VSOP-2プロジェクトの検討を行っています。GLASTとVSOP-2で同時に活動銀河核を観測することが私の夢です。例えば,ガンマ線で爆発的に光った後に,電波で明るく輝く高エネルギーのプラズマの塊が噴き出してくると理論的に予想しています。しかし本当にそうなのか,観測で確かめてみたいのです。予想外の結果が出てくると面白いですね。
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