No.248
2001.11

ISASニュース 2001.11 No.248

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第4回

「高温融液の過冷却状態」

学習院大学理学部 渡 辺 匡 人  

 高温融液の物性に関しては,金属生産加工分野でのキャスティングや半導体デバイス用途の半導体結晶成長プロセスの高精度制御を目指した数値シミュレーションの為の物性値整備としての興味から多くの研究成果をあげてきている。近年,高温融液の物性値測定のために開発された溶融浮遊技術の進歩により,高温融液の物性値が得られるようになったのみならず,液体物性研究に新しい情報を与えている。この一つが,高温融液の過冷却状態での構造と物性測定である。過冷却液体物性の興味は,新材料探索のため非平衡プロセスからの注目と,物性物理学や統計物理学などの基礎分野においても,未だに解明されていない研究対象として注目され続けている。このため,高温融液の過冷却状態の物性測定がおこなえるようになったことは,非常に興味深く液体物性を書き換える新しい成果が期待される。

 溶融浮遊技術には,電磁浮遊,静電浮遊,ガス音波浮遊などの方法があるが,無容器のためるつぼとの接触点での核発生が無く,容易に過冷却液体状態を作り出せ,過冷却液体物性の研究ツールとして最適である。これらの方法を用いることにより,密度,表面張力,粘性,電気伝導度,比熱などの物性値の測定が現在おこなわれている。これら全ての物性値に対する測定手法が確立しているとは言い難いが,データは蓄積されつつある。また物性値の測定のみでなく,我々を含めた日,独,米の各研究グループでは,半導体,酸化物,金属・合金の過冷却液体の構造解析を溶融浮遊法と放射光X線(我々は,SPring-8を使用している)を組み合わせておこなっている。独のグループでは,さらに中性子線も用いて合金の過冷却液体の構造解析をおこなっている。現在までのところまだ浮遊状態で構造解析がおこなえたという段階ではあるが,今後測定データが蓄積されてくると密度などの物性値の測定データとの検討から過冷却液体の構造と物性が明らかになってくるはずである。さらに,過冷却液体の粘性,拡散などの動的性質は最も興味のある物性であり,今後この手法を用いた研究が活発化すると思われる。しかし,拡散係数は現在のところ溶融浮遊法での測定が不可能であり,シアセル法やロングキャピラリー法により微小重力下で測定しなければならない。仮に微小重力下で正確な拡散係数が得られたとしても,過冷却状態での測定は無理であり,新たな測定手段を考えなければならない。また,溶融浮遊法でも地上においては所望の位置に液体を保持するのみでなく重力に打ち勝って浮遊させなければならず,過冷却度を十分大きくすることは難しい。このため,過冷却度の限界を決めている要因は明らかではない。そこで,微小重力下において浮遊させることによりより大きな過冷却を達成させることが期待される。これには宇宙ステーションでの実験が必要であり,早急に宇宙ステーションの運用が望まれる。しかし,溶融浮遊法による物性値の測定は宇宙ステーションでおこなえるが,構造解析は難しい。しかし,仮に微小重力下で液体の構造解析がおこなえるようになれば,過冷却度の限界で物性値と構造が明らかになり,過冷却液体の物性が解明されるに違いない。この結果は,液体から固定へ相転移する際の原子配置の変化を明らかにする情報としても大いに期待される。

(わたなべ・まさひと) 

電磁浮遊装置内で浮遊しているSi融液


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