去る8月19〜30日,ベトナムの首都ハノイでIAGA(International Association of Geomagnetism and Aeronomyの略)という地球電磁気学・上層大気科学に関する国際会議が開催された。IAGAはIUGG(International Union of Geophysics and Geodesy:国際地球物理・測地学連合)傘下の7分野のひとつで,全体会議は4年毎に開催される。今年はその中間の年で,普通は分野毎に違う場所,時期に開かれるが,今回はIAGAとIASPEI(地球内部物理学関係)が一緒にハノイで開かれることになった。なお,2003年のIUGG全体会議は札幌で開催される予定である。
2年ほど前のIUGGの後,メールでの依頼に惑星電離圏・磁気圏セッションのコンビーナーを安易に請け負ったのが事の発端だった。そんな先の予定を聞かれても断る理由がなく,別のセッションでの講演依頼も安請けをして結局,講演を4つも引き受けてしまった。国際研究集会派遣旅費もいただくことになり,いよいよ飛行機の切符を予約する時になってプログラムを見ると,なんと,最初の講演が初日,コンビーナーを務めるセッションが最後。12日間はちょっと長いなと思ったが,後の祭りである。ただ,どこに行ってもメールが使えるのが昔とは大違いで,文書のやりとりで済む仕事は問題ない。逆にいえば,外国に行ってもゆっくりできないのは困ったものだが。
8月19日,日本は既に秋の気配がするぐらい涼しかったが,ハノイはやはり暑かった。でも,30度ぐらいで,日本の真夏と思えば,たいしたことはない。入国審査に差し掛かると,「IAGA&IASPEIへの参加者用の列はこちらに」とガイドがいる。ベトナムとしては国を挙げての力の入れようで,2日目の夜にあったレセプションで副首相が歓迎の挨拶をしたほどである。入国審査の特別列もその一環のようで,列の進み具合は他に比べると早い。並んでいると,ビザの無い人はいるかと聞いてまわっている。無いと答えるとどうするつもりだったのか? 外に出ると,ホテルまでの迎えのバスが待ち構えていた。
バスが空港の外に出たとたん,バスの運転手がいきなりクラクションを鳴らす。しかし,これは序の口だ。日本でいえば自動車専用道路に相当する道であるが,バイクや自転車も仲間のようである。しかも,バイクには2人乗りどころか,3人乗り,4人乗りまである。バスは前方を走るバイクや自転車に「そこどけ,そこどけ」と言わんばかりにクラクションを鳴らしながら駆け抜けていくのである。バイクも同じようにして自転車を追い抜いていくので,四方八方からクラクションの嵐である。ハノイの町に入ると,バイクや自転車がぎっしり詰まっていて,結局,全部が同じスピードになってしまう。クラクションを鳴らす回数は減ったが,交差点では再び音の嵐である。どうも早く鳴らした方が勝ちのようで,ここではクラクションの鳴らし方が運転技術の重要な要素になっているらしい。この調子では道路を渡るのは大変だなと思ったが,歩行者はゆっくりと一定の速度で渡るのがコツらしく,車の方が避けてくれるようになっている。後日,実際に街中で試してみると正にその通りで,バイクや自転車を避けようとこちらが止まると運転手が戸惑うので,却って危ない。ともかくバスは1時間ほどで宿泊予定のGovernment Guesthouseに到着,正直なところホッとした。チェックイン後,隣接した国際会議センターでレジストレーションの確認をして,アブストラクト集などの会議資料を受け取る。翌日に招待講演があるので,準備をしようとしたが,OHPが揃っているのを確認した途端に眠気に襲われて,そのままベッドに転がり込む。
ハノイでの12日間,講演やセッション座長,メールによる種々の用件などのために時間的余裕がなく,街中を見物したわけではないが,印象は昭和20年代後半の日本という感じである。年が知れるが,鍛冶屋で赤い鉄を叩いている様子や天秤棒の両端に棒がたわむぐらいの野菜を乗せて運んでいる姿は,子供の頃に田舎でよく見た光景だった。全体的に平均年齢が若く,皆,一生懸命に働いている感じがする。日曜日早朝にもたくさんのバイクが街中を走っていたが,仕事に出かけているのだとのこと。ベトナム人は頭がいいと言われているので,この労働力が有効に働けば,この国は大発展間違いないだろう。
出かける前に生水を飲んではいけないと言われていて,実際,会議参加者の中には体調を崩した人もいたようだ。一方で好奇心旺盛なは現地人だけの食堂で昼食をとったが,値段も安く味もまずまずだと言っていた。私はそこまでの勇気はなく,一応気を付けるという程度で「快腸」だった。
(むかい・としふみ)