宇宙粒子線に残された大きな問題は何か?
細かく議論すればいろいろあるだろうが,以下の2つが今世紀前半の課題であろう。
1つ目は,宇宙粒子線の最高エネルギーはどこまでいくのか?
2つ目は,宇宙線はいつ・どこで・どのように加速されるのか?
である。
面白いところは,2番目の問題は粒子線のエネルギーによらずいまだに謎が多い点である。遠い銀河で観測されるX・γ線の発生源は,間違いなく高エネルギー粒子であるが,その高エネルギー粒子がどのように生成されるかは,わかっていない。我々に一番近い恒星である太陽において,フレアによる大規模なエネルギー開放がある。この現象に伴い,時には数GeVに達するような高エネルギー粒子が観測されているが,その生成過程もいまだにベールに包まれている。我々の地球近傍でも,高エネルギー粒子の生成は観測されている。地球周辺を取り巻く放射線帯において数十MeVの電子を生成する過程,サブストームに伴う高エネルギー粒子の観測が報告されており,比較的短時間で生成される高エネルギー粒子の研究は地球から宇宙の果てまで共通の研究テーマとして大変興味深い。これらの現象を理解するためには,現象の外からの観測と現象のおきている場所(内側)での同時観測が謎を解くための大きな鍵となる。太陽系内での高エネルギー現象を解明することによって,遠い銀河で起こる現象の理解につながればと考える。
高エネルギー現象の観測は,検出器開発の面から見ると,実はそれほど簡単な話ではない。高エネルギー粒子の生成する環境は,往々にして検出器にとって過酷である。粒子フラックスは3〜4桁増加し温度環境も高い。高係数率に耐え,放射線耐久性が強い検出器でなければならない。そこで,我々が目をつけたのが,現在使用されているSi検出器にかわる新しい半導体検出器“人工ダイヤモンド半導体検出器”の開発である。
ダイヤモンドを素材とした検出器は50年ほど前から粒子線検出器として有効であると言われていた。なぜなら
(1) 300℃の高温下でも使用できる,
(2) ガンマ線によるバックグラウンドが無い,
(3) 可視光に感じない,
(4) 放射線損傷に強い,
という利点が考えられたからである。しかし天然ダイヤモンドを用いた検出器開発は長年行なわれたにもかかわらず,1970年代を過ぎると途絶えてしまっている。この原因はダイヤモンドが高価であると共に大面積の素材が手に入らなかったことにもよるが,主な原因は放射線を照射していると波高値が序々に減衰してしまう,というポーラリゼーション効果があるという決定的な欠点があったからである。20年以上を経過した今,天然の物よりも純度が高く,また大面積の素材が手に入るようになった人工ダイヤモンドを用いて粒子線検出器の開発を我々は再スタートさせている。そして大問題であったポーラリゼーション効果の無い,粒子線検出器の開発に成功している。Fig.1を見て解る様にエネルギー分解能はシリコン検出器に匹敵した結果が得られ,またFig.2に示す様にエネルギーを変化させた鉄粒子を入射させた場合には,dExE法によって鉄のラインを見ることができるという結果が放医研のビーム実験から明らかになり,宇宙重粒子線検出器として充分な性能を持っていることが解った。