No.246
2001.9

ISASニュース 2001.9 No.246

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第2回

燃焼合成とISRU(その場資源利用)

東京工業大学大学院総合理工学研究科 小田原 修  

燃やしてものを創る

 燃やしてものを創る,いわゆる「燃焼合成」により,高融点無機化合物や化合物半導体を短時間で経済的に合成することができる。燃焼合成技術は,熱爆理論の創始者でノーベル化学賞を受賞したセミョーノフの流れをくむメルジャーノフらの発明に端を発して,1970年代よりロシア,日本,米国を中心に推進されてきた。

 我が国では,1979年より推進された,「遠心テルミット法」による金属-セラミック複合構造管の研究開発が緒である。最近では,広く欧州やアジア各国でも研究開発が活発に進められている。

 微小重力環境での燃焼合成技術の応用研究については,1987年に日本とロシアで発表され,その後米国で活発になり,最近ではイタリアを中心にした欧州のグループも研究開発を進めている。

 これまでの研究結果によると,「燃焼合成」を微小重力環境に適用した場合,特に燃焼過程で気相や液相が関与する系や燃焼波面後方の高温領域での凝固過程において,地上での結果に比べ,転換率の向上や生成物の微細化の促進が顕著になる。このような事実は,主に熱対流の抑制に起因するものであり,すなわち,反応帯近傍での反応物の組成均一性の維持や冷却過程にある高温領域での空間的温度均一性の保持が,微小重力環境で向上することによると考えられる。

 この技術は,落下塔や航空機などで形成される短時間微小重力環境でも充分適用できるため,すでに数多くの実験を通して有益な知見を得て,「微小重力燃焼合成」( Micro-gravitational Combustion Synthesis ) という新しい分野形成までに発展させることができた。


Zr-Al-Fe2O3系粉体による燃焼合成 (A) 航空機実験,(B) 地上実験

「微小重力燃焼合成」のジレンマ

 「燃焼合成」は,その名前の通り,「燃焼」と「合成」を組み合わせたものであり,エネルギー供給の不要な短時間での‘ものつくり’を最大の武器としている。「微小重力燃焼合成」では,微小重力の効果が顕著にあらわれるので,基礎的な研究開発としては興味深い対象である。しかし,本来の‘ものつくり’を機軸とした研究開発においては,効果に期待する価値基準が異なるので,魅力ある展開に繋がる要素は少ない。

 短時間で顕著に現れる微小重力の効果の産業上の価値と短時間で省エネルギー的にものつくりができる価値との対比で,「微小重力燃焼合成」はジレンマに陥っている。「物質」の研究開発としての可能性は充分高くとも,社会に役立つ「材料」の研究開発としては強調点を見いだすことが難しい状況である。

ルーナソーラーセル構想

 このような状況にあって,昨年開催の JUSTSAP (日米科学技術宇宙応用プログラム:Japan-US Science, Technology & Space Application Program )微小重力実験ワーキンググループのシンポジウムにおいて,ヒューストン大学イグナティエフ教授が,ISRU (その場資源利用:In-Situ Resource Utilization ) として,ルーナソーラーセル(月面太陽電池)構想を紹介した。

 ISRUは,国際宇宙ステーション計画以降の開発対象を月や火星として,それらが有する資源をその場で活用するという計画である。

 月面の環境は,重力的には地上の六分の一で,大気は地上の十兆分の一,すなわち超高真空である。ルーナソーラーセル構想によると,このような月面の環境を使って,月の資源の一つであるシリカ(酸化ケイ素)を原料にシリコンをとりだし,シリコン半導体膜をつくり,太陽電池を作製することができる。超高真空・低重力環境で,シリカからシリコンをとりだすためには,エネルギー供給の不要な「燃焼合成」が最適であり,正に出番ではなかろうか。これまで培った「微小重力燃焼合成」技術が,これから展開する宇宙開発・宇宙利用で大いに活躍できる舞台かもしれない。

(おだわら・おさむ) 


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