No.243
2001.6

ISASニュース 2001.6 No.243

- Home page
- No.243 目次
- 研究紹介
- お知らせ
- ISAS事情
- 東奔西走
+ 宇宙探査のテクノロジー
- いも焼酎
- 編集後記

- BackNumber

第12回

電気推進ロケット

都 木 恭 一 郎  

 電気推進の概念は古くは1900年代初頭にまで遡り荷電粒子を電気的に加速してロケット推進にしようというものであった。最初に具体的なイメージを描いたのは放電管の中で高速イオンが加速され飛散するのを観察した米国の液体ロケットの父ゴダードであろう。1906〜1912年当時の彼のノートが発見されている。幸山の百匹目の猿ではないが同時期にドイツのオ−ベルトが電気推進の教室実験を行っておりそれは彼の有名な宇宙航行の教科書にも記されている。1890年代のロシアのツィオルコフスキ−に電気推進のアイデアが無かったとも思えないが記録が残っていない。


荷電粒子の静電加速(イオンエンジン)のアイデア

 電気推進の概念は電力を推進剤に与えることで反動推進としての反力を得ようという一種の外燃機関であり化学推進ロケットのように比推力が推進剤で決まるという制約が無い。従って遥かに長時間の噴射ができる。しかし推進剤は厳に必要であり,電気さえあればいくらでも推力が出るなどという奇怪な空想をすべきではない。また,電力を推進パワーに変換するため,発生する推力もまた得られる電力に見合ったものである。化学推進のように地上から打上げるロケットが発生する何百トンという強大な力を出すものでないことは言を待たない。打上げロケットの発生出力を電力に換算すると何ギガワットと言うような発電所顔負けの値である。しかし現状では宇宙で得られる電力はキロワット程度であるから発生推力も数十mN程度と微小である。そのため電気推進は打上げを始めとする重力損失の大きな局面では使用されず,またプラズマを介したエネルギー変換機構の故に大気中でというより真空の宇宙空間で使用しようと考えるのが自然である。

 電気推進のアイデア発祥から百年近い歳月が流れた1995年,宇宙研の電気推進システムがSFU衛星に搭載され宇宙での推進機能立証試験に成功した。これはMPDア−クジェットと言う電磁加速型の電気推進であったが地上で行った耐久試験も含め,開発者はこの成功によって大いに自信をつけさせて頂いた。この頃から電熱加速型や静電加速型の電気推進の実用静止衛星への搭載が世界規模でクロ−ズアップされるようになって来たが実用衛星ばかりでなく科学探査の分野でもいよいよ本格的に電気推進を利用しようという先駆けが米国のDS-1,そして宇宙研が2002年の打上げを目指すMUSES-C小惑星探査ミッションである。ここではイオンエンジン(IES)と言う静電加速型の電気推進を用いる。マイクロ波放電とカ−ボングリッド採用によって長寿命化が図られており既に耐久試験18,000時間を無事に終了した。発生推力は1台当たりグリッド有効径10cmの最大約8mN(同時運転は3台で約1kW )で比推力が3,000秒と化学推進の一桁上を行くため推進剤が大幅に節約され,地球軌道から小惑星までの往復約4年間の主推進を担う。推進剤となるXeは最大73kgを積み込め,電気推進システムのドライ重量目標は約62kgである。ともあれ,現在はこの電気推進のフライト品の試験が粛々と行われている真っ最中である。皆さんがこのミッションの成功を固唾を呑んで見守って下さることを祈りたい。

(とき・きょういちろう) 


MUSES-CのPM熱真空試験モデルとIES(正面)(清水幸夫氏撮影)

#
目次
#
いも焼酎
#
Home page

ISASニュース No.243 (無断転載不可)