No.243
2001.6

ISASニュース 2001.6 No.243

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WPT'01に参加して

田 中 孝 治  

 5月14日から17日にかけてフランスの海外県の一つレユニオン島で無線送電( Wireless Power Transportation )に関する国際会議である第4回WPT'01が開催されました。フランス,ドイツ,カナダ,米国,日本,ロシアから約40名が参加し,一般講演に加え,実際に無線送電が検討されている現地訪問,第一回レクテナコンテスト,ラウンドテーブルなどプラクティカルな内容でした。

 まず,レユニオンの紹介をしたいと思います。レユニオン島はマダガスカルの東約800km,モーリシャスの南西約200kmのインド洋に位置する火山島です。海岸部は熱帯気候に属し,標高3000m程度の山岳部やいまでも活動し十年毎くらいに噴火している火山がある風光明媚なところです。主産物であるさとうきび畑が点在し,バニラも特産品の一つです。人口は70万人弱,観光に力を入れているようですが日本からは年に数えるほどとのことです。環インド洋文化圏というのかインド,マレー系らしい方が多く,また,各地の民芸品が売られています。ホテルの外ではコミュニケーションは難しく食事をとるにも一仕事でしたが,cuuryが代表的な料理の一つでした。

 レユニオン島では1994年からCNES及びレユニオン大学等を中心とした地上での無線電力送電計画があります。候補となっている場所はGrand-Bassinの谷あいの小さな村です(写真参照)。現在は20名ほどの住民が昔ながらの生活を送っており,無線送電は景観を損なわずにゲストハウスやレストランなど観光客用に最低限の電力を供給する有力な方法として検討されています。村の近くに受電アンテナであるレクテナを目立たないように設置し,写真手前の斜面の中腹から700mほど隔てて約10kWの電力を送電する計画です。村の中央の少し大きな建物は80年代までは学校として使用されていましたが,今はデモモデルが置かれWPTの展示場と成っています。現在,世界で唯一の実用的な無線送電計画であり,今回WPT'01が開催された理由の一つでもあります。

 一般講演では,太陽発電衛星(SPS)に関する話題を中心に,マイクロ波やレーザーを用いたエネルギー送受電に関する要素技術,SPS研究の最近の動向やSPS実現のためのロードマップ及び試験衛星計画,無線送電の地上及び宇宙利用等に関して講演及び議論が行われました。米国の研究開発シナリオについては,NASAMankins氏が無線送電の宇宙利用に関して,組織や短期,中期,長期シナリオなどを報告されました。米国の構想は商業的なSPSの実現だけではなく月探査や開発及び火星を始めとした惑星探査計画への応用をも含む壮大なものでしたが,短期計画に関してはこの10年以内の間で100kWクラスの試験衛星の実現が目標とされています。我が国のSPS研究開発の現状に関しては,90年代の宇宙研を中心とした研究グループの活動や最近の経済産業省(METI)やNASDAの取り組みについて高野先生が明快に報告されました。現在,NASDAMETIともにこの数年の期間で数100kWクラスの試験衛星を目指しているようであり,短期シナリオに関しては米国と同等の歩調を期待できます。SPSに関しては従来どちらかといえば概念検討と研究室レベルの小規模な実験が主であり,エネルギー送電に関する宇宙実験については我が国の1983年MINIX1993年ISY-METS二つのロケット実験のみでしたが,最近の試験衛星に関する内外の動向は大変楽しみな状況です。

 また,ラウンドテーブルでは周波数の割り当てや環境や安全性に関する問題,国際協力による発電衛星の運用組織や形態など技術面以外の観点から無線送電を実現していくために取り組むべき課題が討論されました。

 第一回レクテナコンテストでは,通総研の藤野さんが優勝し,日本のこの分野における先進性が十分示されました。

 下記アドレスのホームページでGrand-Bassinプロジェクトや今回の会議の様子が紹介されています。興味のある方はご覧ください。

  http://www.grandbassin.net/

(たなか・こうじ) 



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