No.237
2000.12

ISASニュース 2000.12 No.237

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憧憬(憧れ)

日本学術振興会バンコク研究連絡センター 荒 井 智 典  

 「さわでぃ,かっぷ(クラップ)!」タイでは挨拶は,「おはよう」も「こんいちは」も「さようなら」もこれつでOKです。発音が難しいと日本人の方はいいますが,1番大事なのは微笑みを添えるということらしいです。

 いきなり宇宙とは無関係なお話で恐縮です。まあ,挨拶とISASということでお許しを日本学術振興会バンコク研究連絡センターの荒井でございます。お久しぶりでございます。ご記憶の方もまだいらっしゃいますよね。1994〜1996年度に宇宙研にお世話になっておりました。たった3年間ではございましたが,私にとりましては非常にエキサイティングな日々でありました。仕事の内容もさることながら,おそらく少年時代の終わりとともに閉じ込めていた「宇宙」への狂おしいまでの憧憬(あこがれ)が宇宙研の先生方と接することで急に甦ってきたような錯覚に後押しされたものだったのではないかと今振り返って思っております。

 ちょっと前になりますが,TVのパソコンのCMで西洋人の男の子がロケット(デパートの屋上なんかに設置されている子供用の乗り物で10円玉を入れると前後に揺れるだけのやつ)に乗り込むと本格的な打ち上げのアナウンスがあり,満天の星空にロケットが向きを定め,少年の期待が顔いっぱいに広がった瞬間にガコガコと前後に揺れて少年の失望した顔アップで終わるといった映像がありました(実際にはここで知的好奇心を満足させるといったPCの画面に続くのですが)。誰にでも似たような記憶があると思います。映像にはありませんが,おそらくロケットを降りて両手を広げ肩をすくめながら首を横にふり(欧米人が良くやる仕草)やれやれといった感じで現実に戻っていく少年が私で,「なにくそそれなら自分で作ってやる。」と踏み出した少年が宇宙研の先生方ではなかったかと,このCMを見ながら思いました。誰もが一度は抱く「宇宙」への憧れを今も持ちつづけている,そんな先生方に軽い嫉妬を覚えたのを今懐かしく思い返しております。

 こちらタイ王国におきましても,少年達の宇宙に対する憧れは決して日本の子供たちに引けを取るものではありません。子供用の玩具売り場では,宇宙関連(星間飛行ロケット等)の物は人気が高く,TV番組(子供向け)でも宇宙ネタのアニメやCG物は非常に多いです。いいえ,むしろこちらの子供たちの方が強いといっても良いでしょう。それは情報が日本の子供たちよりはるかに少なく,かつ現実(生活)が非常に厳しいという環境が未知なる「宇宙」への憧れを増幅させるからではないでしょうか。未知なるがゆえに自分の空想が真実かもしれぬという想いが,なお一層少年達の血液を沸騰させるのだと。

 2000年の宇宙研の一般公開には2万人を超す人々が訪れたと聞いております。私もほとんど終わりかけの頃,ちょっとだけお邪魔しました。(そのとき駐車場係の方々には大変ご迷惑をおかけしてしまい,誠に申し訳けございませんでした。このような場を借りてすみませんが,心からお詫び申し上げます。)多くの人にとって「宇宙」は,いまなお未知なる興味深い世界であり,「少年の憧れ」であり続けていることを物語っていると思います。宇宙研での3年間は,そうした人々の憧れに非常に近い場所(距離的なものだけでなく)で何らかの関与を仕事として行える高揚感(初めて異性を意識した頃,フォークダンスで相手の娘の順番を頭の中で繰り返し繰り返し呪文のように確認していたあの昂ぶりにも似た)でいっぱいでした。

 現在宇宙研で働く全てのみなさまに,私は嫉妬します。どうか多くの人々の憧れの近くで働くことへの高揚感を楽しんでください。独立行政法人化や省庁再編による行政機関としての煩雑な種々の問題等,考えたら頭の痛くなるような混沌とした状況ではありますが,どのような形であれ人々の「宇宙」への憧れが無くならない限り,「宇宙研は永遠に不滅です(長嶋風に)」と信じましょう。

 私自身も再度宇宙研で働ける日を未だに夢見ております。しかし,「人事」とは願えば願うほど遠ざかってしまうものらしいです。(事実,異動希望先として「宇宙研」と記入した私は今タイにおります。タイも本人希望ですけど。)

 最後に文中「少年」と限定した表現を連呼したのは,決して「少女」の除外を意図したものではありません。ただ荒井の矮小な脳みそのイメージで「少女の憧れ(夢)」イコール「宇宙」の数式が何故かしっくりいかなかったので,敢えて「少年」とさせていただきました。お気に触った女性の方には,ここでお詫びいたします。

(あらい・とものり) 


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