No.219
1999.6

ISASニュース 1999.6 No.219

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第4回 宇宙からのX線をとらえる検出器」

田原 譲  

 今回は宇宙からのX線を検出するセンサーについてどんなものが使われているかを概観してみることにしましょう。大気圏外に出て宇宙を眺めると,もし我々の目がX線に感じるなら,天空は全体にぼーっと光っているのが見えるでしょう。しかしそのX線の明るさは,例えばX線衛星「あすか」の一つの望遠鏡でX線を集めたとして,X線の光子は3秒1個の割合で検出できるほどです。したがって宇宙X線の観測には,X線の光子一つ一つを確実に捕まえられるような光子計数型検出器が必要になります。

光子計数型検出器にはアルゴンなどの希ガスを用いるもの,シリコンなどの半導体を用いるもの,などいろいろな種類がありますが,X線がこれらの検出器に入ってきて最初に起こすのは,主として光電効果という現象です。これによってX線はそのエネルギーをいったん電子に与えその電子が検出器の中で起こす現象を通じて最終的に電気パルスとして取り出すのが光子計数型検出器の基本原理です。

 このような検出器の中で,X線天文学の歴史上最もよく使われた検出器はガス比例計数管です。これは金属の容器の中に容器と電気的に絶縁された数十ミクロンの非常に細い金属の線を張り,ここに千ボルト程度の高電圧をかけ,容器内に希ガスを封入したもので,比較的簡単な構造のため大型化が容易です。本格的なX線望遠鏡が使われるようになってきた現在では,衛星の搭載装置としてはほとんど使われなくなってきてしまいましたが,実験室ではまだまだ活躍しています。日本で最初に打ち上げられたX線天文衛星「はくちょう」では,最もオーソドックスな比例計数管が搭載されました。また日本で3番目のX線衛星「ぎんが」では1台の入射窓の大きさが20cm x 60cm という大型の比例計数管が搭載され,その高い感度を活かし遠方の活動的銀河核の観測などに活躍しました。

 通常の比例計数管のエネルギー分解能は鉄原子のKX線(6 - 7 keV) で1keV程度ですがこれは検出器ガス中に最初に生じたイオン・電子対の数のゆらぎと芯線の周りで起こすガス増幅に伴う揺らぎで決まっています。このうち後者のプロセスを,揺らぎの生じない光増幅に変えたガス蛍光比例計数管は約2倍の優れたエネルギー分解能を持っています。X線衛星「てんま」ではこのガス蛍光比例計数管が搭載され,世界に先駆け様々な天体からの鉄KX線の観測に威力を発揮しました。さらに「あすか」衛星ではこのガス蛍光比例計数管を位置検出の出来るタイプに改良したものが,4台X線望遠鏡の内2台の焦点面検出器として搭載されています。次に述べるCCDに比べるとエネルギー分解能では劣りますが,ほぼ2倍の大きな視野と10 keV 迄の高いX線検出感度を持っているため,特に銀河団など広がっていて鉄のKX線を示す様な天体の観測で活躍しています。

 半導体検出器はガスの検出器に比べると,X線から信号となる電子への変換の効率が高いため優れたエネルギー分解能が期待されます。従来からX線も含めた放射線の検出器として実験室ではよく使われてきましたが,雑音となる電子を減らすためには低温で使う必要があること,素子の製作には専用の高額な装置と技術が必要であること,などのために衛星搭載用の検出器としての実用化には時間がかかりました。最初のX線望遠鏡を搭載したアメリカのアインシュタイン衛星は単素子のリチウム・ドリフト型シリコン半導体検出器が使われましたが,単素子のためイメージング機能はありませんでした。

 本格的イメージング機能と高いエネルギー分解能を兼ね備えた半導体検出器は,家庭用ビデオカメラなどでよく知られているCCDX線観測用に特別に開発したX線CCDカメラで,衛星搭載用として最初の検出器は「あすか」に2台搭載されたSIS(固体撮像型X線分光装置)です。鉄KX線でのエネルギー分解能は130 eVで通常の比例計数管の約10倍の性能に相当します。この検出器を用いて「あすか」では,超新星残がいにおける重元素の分布やガスの運動の様子を詳しく調べるのに役立っています。この実績をもとに2000年に打ち上げ予定のASTRO-EではX線CCD4台搭載される予定です。

 このほか,さらに高いエネルギー分解能を目指したX線検出器にはX線マイクロ・カロリメータがあります。この検出器は超低温(絶対温度 0.1 K 程度)に冷却された素子にX線が入射したとき,X線のエネルギーの吸収によって生じた素子の温度上昇を電気抵抗の変化として読み出すものです。ASTRO-E衛星に搭載予定のXRS(X線分光検出器システム)ではこれまでの地上試験で「あすか」CCDのほぼ10倍のエネルギー分解能(鉄KX線で約 10 eV)が達成されています。

 このタイプのX線検出器では,さらに素子を超電導状態において,X線の入射に伴って超電導が崩れる事を検出することにより,さらに高いエネルギー分解能が期待されるTES(トランジッション・エッジ・センサ)と呼ばれる検出器の開発が進んでいます。これが実現すると可視光の高分散分光並の分解能(E/dE=数千)が得られることになり,X線放射プラズマの精密分光が進むと期待されます。

(たわら・ゆずる)



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