No.218 |
<研究紹介> ISASニュース 1999.5 No.218 |
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イオンエンジンを主推進機関とする小惑星サンプルリターン計画「MUSES-C」は各分野の方に多くの研究テーマを与えていますが,軌道計画も例外ではありません。イオンエンジンの諸元に起因するやっかいな制約条件を取り込めるシンプルな設計法が必要となったため,低推力軌道をパラメタ最適化問題と捉えて非線形計画法によって解く方法を用いました。この方法は後述する水星探査計画やロケット軌道の最適化にも役立っています。
将来ミッションの検討の一環としては水星ミッションがあり,3つの範疇に分かれます。1つは,水星−水星遷移フェーズにおいて電気推進を用いる多数回水星フライバイミッションで,計6回の水星フライバイを打ち上げ後3年という短い飛行時間で行い,磁気圏観測,撮像の観点から多様なフライバイジオメトリを実現するものです。
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3つ目は,化学推進の使用を想定した水星ランデブーミッションで,打ち上げ後に金星と水星の多数回のスウィングバイを経て水星に到着します。これらの3種類の水星ミッションは,それぞれに異なる軌道設計法が要求され,学生の頃に考えたボタンを押すとポンと答えが出てくる汎用性のある軌道設計ツールの完成はほど遠いのではないかと考えています。他にも,メインベルト小惑星ランデブー,多数回小惑星フライバイ,彗星コマ/核サンプルリターン等も模索中です。
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目を実験に転じると,助手時代の前半はペネトレータ関連の実証試験に明け暮れていたと言えます。気球により高度40kmからペネトレータを投下して,スピン型サンセンサの情報をもとにガスジェットによるラムライン制御の性能を確認する試験に参加しました。
実験が何たるか全くわかっていない時代で,試験コンフィギュレーションの検討,オペレーション手順の立案で頭を悩ませていたことを記憶しています。また,ヘリコプタを使用したペネトレータ機能確認試験も行いました。高度500mからペネトレータを落下,加速させ,月面表面に近い砂浜に貫入させることで,その機能確認を行うことが目的でした。風,ミスアラインメント等を考慮したペネトレータの挙動のシミュレーションを行ったり,気圧計,GPSデータをテレメータで受けてヘリコプタの位置をリアルタイムで求めるシステムを担当しました。
ロケットではいつも風に悩まされています。観測ロケットの風補正はいつも緊張の連続です。風補正の主目的は落下点位置分散の低減であり,ある秒時での速度方向がノミナルと一致するように,ランチャー角の方位角/上下角を設定しています。
M-Vロケットでは風はもっと厄介です。M-Vではオペレーション上の制約から打上げ時の高層風を予測して,約1日前に姿勢プログラム(軌道)を設計する必要があります。そこで,高度16km以下は気象庁の予報データを,高度16kmから50kmまではイギリスの気象局の観測データを時間的空間的に補間して鹿児島における高層風を予報するシステムを構築しました。
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最近は,小型垂直離着陸式再使用ロケット実験機の航法誘導制御系の検討を行っています。慣性航法装置(IMU)および高度計を用いた航法,消費燃料が最小となる最適制御に基づいた誘導則,エンジン推力制御,スラスタによる姿勢制御系と課題は盛り沢山です。一見,シンプルなシステムでも実際にフライトに供するのは大変であることを1999年3月のフライト試験で実感しました。
軌道の無いミッションは無く,このように11年間にさまざまな計画に参加することができました。今後とも,この宇宙研の雑用係りをよろしくお願い致します。
(やまかわ・ひろし)
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