No.211 |
<研究紹介> ISASニュース 1998.10 No.211 |
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惑星の表層環境は基本的には太陽から受け取る放射と惑星が出す赤外線放射のバランスで決まっているが,太陽放射が一定で,大気量・大気組成が変化しないとしても,大気システム内の様々な要因によって環境変動は起こる。更に,このようないわば内因的な変動を除外したとしても,「太陽放射・大気組成・大気量一定」という条件は満足されていない。太陽放射は太陽が核融合反応でエネルギーを得ているために,時間とともにゆっくり増大し,46億年間で25〜30%増大したと考えられる(たとえば Gilliland,1989)。また,大気の散逸や脱ガスによって大気量や組成は変化する。ここでは特に太陽放射の時間変化と惑星のアルベド(反射率)の変化に注目したい。
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図1 地球軌道での海洋存在条件 |
地球軌道の地球サイズの惑星が H2O + CO2 大気を持つ場合の完全凍結の条件(点線)と暴走温室状態になる条件(実線)を示す。縦軸は CO2 量,横軸は規格化した太陽放射で現在が1である。実線よりも右側では暴走温室状態,点線よりも左側では凍結状態になる。線に付した数値はアルベドである。 |
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アルベドが 0.2 - 0.3 程度の時には広い範囲のCO2分圧,太陽放射の値で海洋存在の条件が満たされている。アルベドが 0.1以下では過去の暗い太陽の下で少ない二酸化炭素量であっても凍結を免れる代わりに,現在の状況では暴走温室効果が発生し得る。アルベドが 0.6以上では暴走温室効果は起きにくい代わりに,現在の太陽放射のもとで105Pa =1barの二酸化炭素大気があっても凍結状態に陥る。
ただし,この図は H2O - CO2 大気の場合なので,窒素や酸素の効果が含まれていない。窒素や酸素はそれ自体では温室効果を持たないが,大気の全圧を上げることによって,地面温度を高く保つことに寄与している。現在の地球のアルベドは 0.3なので,窒素や酸素の効果を考慮に入れると,現在の地球はこの図ではアルベドが 0.3で CO2分圧がだいたい 2 - 3 x 104Pa のところに相当する。
アルベドが 0.3であれば,現在の太陽放射の 80%ぐらいで凍結する。つまり,数十億年前の地球が現在と同じ大気組成,現在とおなじアルベドであったとすると凍結してしまっていたはずである。しかし,大規模な氷床が発達した時代は示唆されるものの,完全に凍結してしまった状態になった証拠は知られていない。したがって,過去の地球大気は現在とは違っていたはずである。これは Sagan and Mullen [1972] によって指摘され,Young Faint Sun 問題として知られている。
通常は,過去の大気中の二酸化炭素量が多かったことが,この問題の解決策であると考えられている(例えば Kuhn and Kasting [1983])。大気中の二酸化炭素量はマントルからの脱ガスで供給され,海中で炭酸塩として固定されて,それがプレート運動によってマントル中に戻ることによって調節されている。炭酸塩としての固定は陸上岩石の風化でカルシウムなどの陽イオンが供給されることで律速されており,風化は気温が高いほど速い。その結果,気温が高くなると地上の岩石の風化を介した二酸化炭素の固定が進んで大気中の二酸化炭素は減少し,逆に気温が下がると風化を介した固定が進みにくくなるために脱ガスが卓越して大気中の二酸化炭素量が増大することが期待される。この機構は気温をちょうど二酸化炭素収支がバランスするように調整し,いわばサーモスタットのように働くことが期待される[Walker et al.,1981]。この機構によって地球の気温がほぼ一定に保たれるように大気中の二酸化炭素量が変化したという考えがある[Tajika and Matsui, 1993]。
この機構が有効に働くためには,海洋が存在するだけでなく,陸地 = 大陸とプレート運動が必要である。さらに,この議論では,アルベドは現在の値 0.3 で一定であることを仮定している。しかし,現在のアルベド 0.3 がいかにして維持されているかは不明であって,過去にも同じ値であったという保証はない。地球大気のアルベドはかなりの程度雲の影響で決まっているが,一つの雲の寿命は数時間程度であって,長期にわたって平均的なアルベドが保たれていると言うこと自体,不思議な現象である。
アルベドの値が数十万年以上の長周期で変化しても,それに応じて二酸化炭素量が変化することによって,上述のサーモスタット効果は働き得る。しかし,図1からも読みとれるように,アルベドの影響は二酸化炭素量の影響よりもどちらかといえば大きく,しかも原理的には短周期で変化し得る。アルベドが短時間で変動した場合には気候状態も安定しない。何かの強力なフィードバック機構が期待されるが,その正体は不明である。
アルベドの時間変化という視点では,過去のアルベドが 0.2 ほどの値であったとすれば,二酸化炭素量は変化せずとも,Young Faint Sun Paradox は解決することができる。現在のアルベドを制御している機構がわからない以上,過去のアルベドが小さかった可能性は容易には否定できない。
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第一には金星の雲が全面をほぼ一様に覆っている点である。地球の場合,雲に覆われているところと,覆われていないところ(晴れているところ)があり,その面積比の変化が全アルベドの変化に大きな影響を及ぼす。金星の場合,雲の面積の変化はとりあえず考えなくて良い。
第二には雲の成因がある。地球の場合,雲は大気の上昇運動に伴って水蒸気が凝結することで生成されている。金星の場合,大循環規模の影響も受けるが,基本的には光化学反応による硫酸生成が雲生成の重要な要因であり,このことがほぼ一様な雲の生成とも結びついている。
つまり,金星の雲は地球と比べれば力学的な影響をあまり受けない点で扱いやすい。
金星雲の問題に対して,我々はまず一次元の雲モデルの構築から始めた[Hashimoto and Abe, 1996a,b]。光化学反応が雲生成の重要な要因であるが,大気上端での硫酸生成量をパラメターとして与えて,生成された硫酸は定常的に大気中を静かに下降するとする。簡単な雲粒子の成長モデルを組み合わせることで,雲粒子の鉛直分布や雲粒子サイズ分布,さらに雲の反射率を計算することができる。得られた反射率は特別な調整パラメターを導入しなくても,金星の反射率を良く再現する。こうして鉛直一次元の化学反応と物質輸送,雲粒の成長を考慮したモデルによって,金星のアルベドは説明することができた。
現在は次の問題として,このアルベドの安定性を検討している。既に述べたように,太陽放射は時間とともに増大しているし,金星大気からは水蒸気が失われ続けていると考えられている。この効果がどの様に反映するかが問題である。金星の場合,大気中の SO2 の量が雲生成に重要な役割を果たしている。SO2 は硫酸生成の材料物質であり,多くなれば雲は厚くなるし,少なくなれば薄くなることが期待される。
一方,金星大気中の SO2 量は地面での磁鉄鉱と黄鉄鉱間の化学平衡で決まる値に近いことが知られている。もし,地面での化学平衡で大気中の SO2 量が制御されている場合,次のようなフィードバック機構が働くことが予想される。何かの原因で地面温度が上昇すると化学反応によって大気中の SO2 量が増加する。大気中の SO2 量の増加は雲を厚くし,アルベドを上げる。アルベドの上昇で入射太陽放射が小さくなり,地面温度上昇は抑えられる。逆に何らかの原因で地面温度が下がった場合にはこの逆のプロセスが働く。これは地面温度を安定化させる負のフィードバックである。実際には雲自体の温室効果や,SO2 による温室効果もあるために状況は複雑であるが,数値モデルによると,金星地面の温度変化は無い場合の半分程度にまで緩和されることが示される(図2)[Hashimoto and Abe, 1998]。これを化学アルベドフィードバックと呼んでいる。
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図2 金星大気における化学アルベドフィードバック |
横軸に規格化した太陽放射,縦軸に温度を示す。実線が化学アルベドフィードバックを考慮した場合,破線が考慮しない場合である。 |
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図1 地球軌道での海洋存在条件地球軌道の地球サイズの惑星が H2O + CO2 大気を持つ場合の完全凍結の条件(点線)と暴走温室状態になる条件(実線)を示す。縦軸は CO2 量,横軸は規格化した太陽放射で現在が1である。実線よりも右側では暴走温室状態,点線よりも左側では凍結状態になる。線に付した数値はアルベドである。
図2 金星大気における化学アルベドフィードバック横軸に規格化した太陽放射,縦軸に温度を示す。実線が化学アルベドフィードバックを考慮した場合,破線が考慮しない場合である。
(あべ・ゆたか)
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