No.208
1998.7

            ISASニュース 1998.7 No.208

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PLANET-B が,「のぞみ」となった日
中谷 一郎    


 7月4日は,衛星班にとって,本当に長い1日でした。早朝3時12分の打上げに備えて,衛星班が,最終準備に入ったのは,スケジュール表によれば,前日3日の夕方7時12分となっています。しかし,何人かのメンバーは,最後の心の準備(?)に,3日の午過ぎには,射場に集まり始めました。

 そして,打上げ後,日本での第1可視運用を感激のうちに終えたのが4日の夜10時半でした。衛星班にとっては,この瞬間に,ようやく第一段階の成功を確認し,PLANET-B が,「のぞみ」に変わったと言えるかも知れません。我が国初の惑星探査を目ざし,そして世界の宇宙科学のフロンティアを拡大し,人類の持つ根源的な謎に迫るという期待を担って,PLANET-B は,「のぞみ」と命名されました。

 内之浦の射場に,PLANET-B が陸路,運び込まれたのは,6月2日でした。梅雨入りの前から続いた長期の大雨で,波見・内之浦間の国道が崖崩れの危険から閉鎖され,迂回路を通っての運搬でした。




ノーズフェアリング組付け中のPLANET-B


 探査機単体での動作チェック,推進剤の充填を経て,ロケット側のキックモータと組合わされたのが,6月22日。ノーズフェアリングがかぶせられ,探査機が見えなくなる直前の,最終外観チェックが,同24日でした。長年,大切に育ててきた,一人娘が,ロケットという,頼もしい伴侶と一緒になって,我々衛星班の親の手を離れていく,感傷的な瞬間です。「不肖の娘だけれど,ロケット君,大事にしてやってくれよ」と心の中でつぶやいたのは,筆者だけではなかった筈です。

 これらの準備と並行して,打上げ直後の探査機の運用手順についての最終確認,動作チェック結果の評価,地上設備の確認等,衛星班は,忙しい中に,次第に緊張感が高まってきます。特に,いつものことながら,打上げ後,万一の場合に想定される不具合対策の議論を始めると,本来,極めて起こり難い故障の議論が,あたかも必ず起る故障のように錯覚され,妙に白熱してきます。

さて,こうした準備の後に迎えた冒頭の打上げの日に話を戻しましょう。スムーズな打上げ後約30分で,地球の裏側のサンチャゴ局が探査機の電波を受信,続いて,その10分後には,カリフォルニア州のゴールドストーン局も電波を捕らえてくれました。いずれも米国の NASA による支援で,日本での第1可視が打上げ後10時間半と,ずい分時間が経過してからですから,大変心強い支援です。NASA からの軌道情報を基に,衛星班の軌道計画グループは,軌道制御を行うための準備を開始し,大変忙しくなります。

 内之浦の初めての可視は,4日午後1時40分頃に始まり,約10時間続きました。少し遅れて,午後2時からは,臼田局にも,電波が入感し始めました。

 「のぞみ」の姿勢,各部の温度,電源の状況,1分間9.6回のスピンなど全て正常で,一つのハイライトである,非可視期間中の太陽電池パドルの展開も,無事終了していることが確認されました。これら一連の「入感チェック」が終って,初めて衛星班の間に,笑顔が戻りました。その後,姿勢を変えるために,ヒドラジンスラスタを噴射し,更に,新規開発の500ニュートン2液エンジン3回にわけて噴射して,軌道の制御を行いました。この操作で軌道の遠地点を下げ,周期が15日半の,長楕円軌道に載せました。

 ここしばらくの間,「のぞみ」の日本からの可視は,毎日午後から夜にかけて続きます。2回目の軌道制御は,7月11日に予定され,7月20日にかけては搭載観測機器のチェック,8月に入ってからは高電圧の機器の試験も行われます。

 「のぞみ」は,その後,9月12月1回ずつ月スイングバイを実施して,増速した後,12月20日には地球の引力圏を脱して,火星へと旅立ちます。火星到着は,来年の10月,長い旅路となります。

(なかたに・いちろう)



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