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1996年度第一次大気球実験報告

 1996年第一次大気球実験は,5月30日から6月7日まで三陸大気球観測所で行なわれた。今期実施した実験はB30型気球による成層圏大気のクライオサンプリング1件であった。気球は6月6日早朝放球され,その飛翔および液体ヘリウムを使った大気採取装置の動作は極めて順調であり、高度34Hから順次1H毎の大気の採取が正常に行なわれていた。しかし,実験装置を回収するため,酒田沖の海上でパラシュートにより降下させたが,パラシュート本体およびゴンドラの一部は回収できたものの,かんじんの採取した大気が入っている容器を発見することができなかった。気球実験でのみ取得できる成層圏の貴重な大気であり,分析と解析を担当する大気研究者諸氏が期待して待っていたものであったので,大変残念な結果となってしまった。原因は良く検討し,次回から万全を図りたい。

 なお,今期の気球実験に先立ち,岐阜で第20回ISTS(宇宙技術と科学の国際シンポジウム)が開催されていたが,そこに参加したフランスCNESに所属する気球基地の所長のFaucon氏夫妻およびスウェーデンの宇宙観測基地ESRANGEのロケット・気球部門責任者Kemi氏が,帰路三陸大気球観測所を訪問された。世界的には例の少ない山間部の気球基地を興味深く見学されるとともに,相互の気球技術について熱心な討議を行ない,三陸の風物および食事を堪能して帰られた。

(矢島信之)


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奥田文部大臣視察来所

 6月24日(月)奥田文部大臣が本所を視察された。同行は中西審議官,早田研究機関課長,所側は西田所長,松尾企画調整主幹以下が対応。概要説明ののち昼食をはさんで所内をご案内。折よくクリ-ンル-ムに勢揃いしていたMUSES-B,LUNAR-Aのフライトモデル,PLANET-Bの熱構造モデルを間近で見ていただくことができた。「ようこう」管制室では観測の成果と国際協力の雰囲気を、深宇宙管制室では遥かなる深宇宙探査機運用の現場を(ここは急遽スケジュ-ルに組み込んだのであるが,ここでも折よく「あすか」が入感),と短時間の中でバランスよくご視察頂けたと思う。
 公務ご多忙の中,誠にありがとうございました。内之浦の発射場,臼田の深宇宙局なども含めてまたのご来所を心からお待ちいたしております。

(松尾弘毅)

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「あすか」の見た暗黒物質

 まるで透明人間みたいに,重さはあるが見えない物質  −− 宇宙には,そんな謎の「暗黒物質」が存在するらしい。存在するどころか,その暗黒物質は宇宙の物質の9割近くを占め,日常おなじみの「見える物質」は,じつはゴミみたいなものらしい。このショッキングな話は,50年以上も科学者を悩ませてきた。

 暗黒物質は,どんな電磁波でも検出できない。そんなものがなぜ認識できるかというと,暗黒物質の作る重力が,「見える物質」に影響を及ぼすためである。たとえば,太陽系やその近くでは,暗黒物質の証拠は乏しい。ところが視野を広げ,銀河系の全体やよその渦巻き銀河を眺めると,事情は一変する。渦巻き銀河の中心部には多くの星が集まり,明るく輝いている。もし質量も銀河の中心部に集中しているなら,渦巻き銀河の回転速度も,外側ほど遅くなっているだろう。これは惑星の公転速度が,太陽から離れるにつれて遅くなるのと同じ理屈である。ところが多くの渦巻き銀河で,実測された回転速度は,なんと中心から端までほとんど一定である。これは暗黒物質の作る大きな球が個々の銀河を取りまいていることを意味する。
 星が集まって銀河を作るように,銀河も数十ないし数百個が集まり,銀河団という集団を作る。銀河団の内部の広大な空間には,銀河が点在するとともに,数千万〜1億度という超高温の電離ガスが充満し,その量は星の質量をしのぐ。このガスはX線を放射するため,X線観測の絶好の対象となる。図に「あすか」でみた銀河団の例を示した。このようにX線の画像からガスの広がりが,またX線スペクトルからガスの温度がわかると,ガスを銀河団につなぎ止めるのに必要な重力の強さがわかり,その源としての総質量が計算できる。こうして過去15年にわたるX線観測を通じて,銀河団には星とガスの和より1桁も多い質量が含まれることがわかってきた。すなわち,銀河だけでなく,銀河団にも大量の暗黒物質が存在するのである。

 では,銀河と銀河団の暗黒物質はどんな関係なのだろう。
(A) 暗黒物質は銀河団の内部に滑らかに分布し,その一部を切り取って眺めたものが銀河の暗黒物質にすぎないのだろうか。
それとも,
(B) 銀河団には銀河団の暗黒物質があり,またその中の個々の銀河には、それらに固有の暗黒物質が付随しているのだろうか。
これは、暗黒物質の正体にかかわる重大な問題だが,未解決のままだった。そこで登場したのが「あすか」である。「てんま」や「ぎんが」は優れたX線スペクトル機能をもち,アインシュタイン衛星やロ−サット衛星は,X線の撮像に優れていた。しかし,両方の能力を兼備しているのは,「あすか」が最初である。

 「あすか」で観測を重ねた結果,上の (B) が正解らしいとわかってきた。たとえば図の「ろ座」銀河団では,X線放射が銀河団の全体に大きく広がるとともに,その中心にある2つの楕円銀河のまわりで,一段と強くなっている。これらの楕円銀河は,自分たちの暗黒物質をもつため,そこでは重力が強まり,結果として銀河団の平均よりずっと多くの高温ガスが引きつけられたらしい。いいかえると,暗黒物質は銀河団の全体に希薄に広く分布すると同時に,個々の銀河の周囲では,暗黒物質の密度が格段に高くなっているのである。こうした特徴は,「暗黒物質の階層構造」と呼ばれている。

 では,銀河に付随する暗黒物質と,銀河団に付随する暗黒物質は,同じものだろうか。残念ながら,これは現時点では不明である。たとえば銀河の周りの暗黒物質は,核融合を起こすに至らなかった多数の暗い星 (褐色わい星)から成り,銀河団の暗黒物質は,未知の重い素粒子から成るのかもしれない。あるいはそうした素粒子が,2つの異なる空間スケ−ルで分布しているのかもしれない。答は今後の研究にかかっている。


(a) 「あすか」GIS装置でえられた,ろ座銀河団のX線マップ。X線放射は銀河団の全体を満たすとともに,中心の二つの銀河の周辺で強くなっている。

(b) (a)のデータを2本の線に沿って切り出し,解析した結果,暗黒物質が二つの異なるスケールに分布していることが発見された。この図はその結果を模式的に示したもの。

(東京大学工学部・牧島一夫)

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