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特集

「ひので」が見た太陽X線ジェット

下条圭美 国立天文台 野辺山太陽電波観測所 助教

 「太陽X線ジェット」はその名の通り、「太陽」で起こり「X線」で見ることができる「ジェット」状の噴出現象です。X線で見ることができるということは、ジェットの温度が100万度以上であることを示しており、非常に高温なガスの噴出現象であることが分かります。この太陽X線ジェットは、日本の前・太陽観測衛星「ようこう」に搭載された軟X線望遠鏡で発見された現象です。その長さは平均15万km、最大のものになると30万kmにも達します。また、噴出物の見掛けの速度は平均200km/sと、東京―大阪間を2秒半で通過してしまうほどの高速です。太陽X線ジェットは、フレアやマイクロフレアなど太陽面上の爆発現象とともに発生します。そのため、太陽X線ジェットの大多数が活動領域で発生し、太陽の北極や南極によく見られるコロナホールと呼ばれる活動度の低い領域では、まれにしか発生しないと考えられていました。

図12 X線望遠鏡(XRT)がとらえた北極のコロナホールで発生した太陽X線ジェット(白い矢印)

 太陽X線ジェットは、「ひので」の打上げ前からその観測対象として考えられていましたが、「ようこう」の結果から活動領域で数多くのジェットが観測されると予想されていました。しかし、「ひので」を太陽の北極に向けたところ、予想外の結果が待っていました。図12は、「ひので」搭載のX線望遠鏡(XRT)で見た太陽の北極です。極のまわりはX線が暗く、コロナホールになっていることが分かります。この領域を動画で見ると、多く(1時間に10例以上)の太陽X線ジェットが北極のコロナホールで起きているではありませんか。まったく予想外の結果でした。これは、XRTの空間・時間分解能が「ようこう」に比べ格段に向上したことと、「ようこう」より低温のプラズマ(〜100万度)まで見ることができるようになったために、観測できたものです。

図13 XRTで撮影された太陽X線ジェット
左は通常、右は強度の変化を強調した画像。上段はジェット全体、下段はジェットの足元を拡大した画像。強度の変化を強調すると、ジェットの内部に白黒のパターンが見えている。

図14 極端紫外線撮像分光装置(EIS)で観測されたジェット(白プラスマーク付近)
画像はドップラー速度の構造を表しており、青が青方偏移、赤が赤方偏移を示している。ジェット本体は30km/sの視線方向速度をもっていることが分かる。(Kamio et al. 2007)

 この極域で発生するジェットでは、200km/sのジェット本体の先に500〜1000km/sの超高速ジェットがあることや、ジェットの内部に波動のような構造(図13)があることが、XRTにより発見されました。500〜1000km/sという速度はコロナ中でのアルヴェーン波の速度に近く、またジェット内部の波動のような構造は、磁力線が曲げられている証拠でもあります。これらの結果により、太陽X線ジェットとともにアルヴェーン波が励起されていることが明白となりました。この太陽X線ジェット起源のアルヴェーン波がコロナホールから吹き出す高速太陽風を加速しているのではないかと、研究が進められています。また、「ひので」搭載の極端紫外線撮像分光装置(EIS)でも太陽X線ジェットが観測され、その分光観測によりジェットの速度構造も明らかになりました(図14)。

(しもじょう・ますみ)