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特集

イトカワの衛星サーベイ

布施哲治 国立天文台ハワイ観測所 研究員

 小惑星のまわりに衛星が見つかれば、その軌道半径と公転周期より、重要な物理量の一つである質量を求めることができます。これまでに衛星を伴っている小惑星が数十個も見つかっていることから、イトカワにも衛星の存在が期待されていました。
「はやぶさ」がイトカワに接近中の世界時2005年9月1日、マルチバンド分光カメラ(AMICA)を用いてイトカワの衛星探査を実施しました。観測はイトカワから約1700km離れた地点で2時間の時間間隔を空けて4回撮像しました。その距離におけるAMICAの視野は、イトカワ周辺でおよそ170km四方に相当します。一方で、太陽のまわりを公転する天体のまわりに、衛星が力学的に安定して存在し得る距離を“ヒル半径”と呼びます。太陽からの距離などによるヒル半径は観測時に33km程度であることから、AMICAの視野はヒル半径を十分にカバーしていました。
  しかし、観測時に巨大な太陽フレアが発生したため、取得したデータには太陽から飛来した高速粒子による多数のノイズがランダムに写りました。さらに探査機の姿勢を制御するリアクションホイールのトラブルにより、4回の撮像の間に探査機が少し回転しました。画像処理によりノイズを軽減した後、各画像の背景に写る恒星をカタログと比較同定し、恒星の位置に合わせて4枚のデータを重ね合わせたものが図13になります。その後、ランダムなノイズと区別しつつ、4枚の画像上のほぼ同位置に連続的に写るべき衛星を探しましたが、該当するものは発見できませんでした。

図13 大きな円はイトカワのヒル半径、小さな円は背景の恒星を示す。イトカワは明る過ぎるため、スパイク状のブルーミングが見られる。矢印はイトカワのゴーストを示す。(Fuse et al.)

 本観測の限界等級は、66.7秒の積分時間から約9.5等級と見積もっています。衛星がイトカワと同程度の反射率を持っていると仮定すると、イトカワ周辺にある1mクラスの天体が検出できる条件でした。イトカワの光に隠れて見えない領域も存在しますが、大きさ1m以上の衛星はイトカワに存在していない可能性が高いことになります。以上の結果は、「はやぶさ」によるほかの観測や、これまで行われてきた光学観測・レーダー観測から衛星が見つかっていない事実と矛盾のない結論を示しています。

(ふせ・てつはる)