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特集

軌道決定精度向上への取り組み

 人工衛星や探査機(あわせて宇宙機と呼ぶ)と通信したり,計画通りに飛行していることを確かめたり,取得したデータを解析したりするためには,宇宙機の過去・現在・未来の位置を知る必要があります。この情報を軌道と呼び,ある時刻における位置と速度が分かればすべて計算できます。軌道決定とは,各種のデータをもとに,宇宙機のある時刻における位置と速度を求めることです。従来は,地上局と宇宙機との電波の往復伝搬時間(距離が分かる)と,地上局から送信され宇宙機で折り返されて再び地上局で受信された電波のドップラーシフト量(速度が分かる)のデータだけを使っていました。この方法では,上空1000kmを飛ぶ人工衛星なら数十mの誤差で位置が分かります。

 近年はさらに高精度が要求されるため,JAXAでは従来の方法に加えGPS,SLR,VLBIといった新しい計測方法や,天体の重力場推定に取り組んでいます。

 GPS計測は,高度2万kmを飛ぶGPS衛星からの電波を受信して位置を決め,SLRは地上局から宇宙機の鏡にレーザー光を当てて反射光が戻ってくる時間を測ります。VLBIは下の項目「相対VLBIを使った軌道決定」をご参照ください。

 宇宙機の運動予測には宇宙機に働く力,すなわち重力場が分かっている必要があり,飛び飛びに得られたデータから連続的に宇宙機の位置を求めるには,重力場も正確に推定する必要があります。天体の重力は一様ではなく,強弱があります。実際の重力場は細かく見ると非常に複雑ですが,複雑なまま扱うことは困難なので,目的に応じて近似した重力場を使います。現在,JAXAは月へのSELENE計画を進めていますが,月が常に同じ面を地球に向けているため,月の裏側の重力場が不明確です。そこで,リレー衛星経由で月の裏側を観測して高精度の月重力場推定をしようとしています。


(統合追跡ネットワーク技術部/OSFO/JAXA)
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