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S-310ロケット33号機の打上げに成功 電離層の謎の解明へ前進(内之浦)

 1月18日午前0時30分に、鹿児島・内之浦にあるJAXA内之浦宇宙空間観測所から、電離層の大気光に関する謎の解明を目的とするS-310ロケット 33号機が発射され、打上げ、観測とも100%の成功を収めました。観測機器のグループは、大気光縞々模様の謎を解明すべく、早速データの解析にとりかかります。なお、S-310がどんなロケットかについてはこちらを参照してください。発表文>>

大気光の縞々模様はどうしてできるのでしょう?

 地球の大気は高度が高くなるにつれだんだん薄くなっていきます。高度30km(すなわちエヴェレスト山の約3倍)では地上の気圧の約百分の一になります。
 これらの大気の中にはいくつかの高度で太陽光をもともとのエネルギー源として光を出しているものがあります。これを「大気光」と呼びます。高度 85−100kmでも薄い大気が発光していることが知られています。これらはきわめて弱い光のため肉眼では見えませんが、特定の波長の光だけを通すフィルターを使った高感度カメラによる撮影で観測を行うことができます。ところが、最近急激に発達した光学技術を使った観測によって、この発光層が縞々構造を持つことが分かってきました。

 写真は2000年1月に鹿児島県内之浦町に設置したカメラで撮影された縞々の発光層(総務省通信総合研究所)で、左右にのびる光の帯が幾筋も見えています。
 この縞々状の構造はどのようにしてできるのでしょうか。最近の研究により、希薄な大気中を伝わる波がこの構造と関係がありそうだということがわかってきました。しかし、波がどこからやってくるのか、その波がどのように大気が発光している高度まで達しているのか、波がどのようにして縞状の発光を作り出すのか、まだ謎のままです。
 この現象を地上に設置したカメラとの同時観測によって解明すべく、観測ロケット実験が提案されました。観測ロケットには大気光の強さ、酸素原子や電子の密度を観測するための測定器を搭載し、大気の波が伝わる様子を調べるとともに、薄いアルミ箔(フォイル・チャフ)をロケットから約1万枚散布して、これを地上のレーダーで追跡する事により大気の風の情報を得ます。これらの観測から大気波動の波長や伝搬方向を推定することができます。

 いっぽう地上では、観測ロケット打上げの前後数時間にわたって、酸素原子や酸素分子の発光分布をカメラで撮影します。特に通信総合研究所と名古屋大学太陽地球環境研究所は、三地点にカメラを設置し三角測量の原理で大気が光っている高さを測定するとともに、水平方向の構造に関する情報を得て、大気波動の水平波長と伝わる速度を推定します。
 すなわち短時間ですが鉛直方向の観測が得意なロケットと、長時間にわたって水平方向の観測が得意な地上カメラの組合わせで、大気光を立体的に観測するわけです。
 薄いアルミ箔による風観測法とは別な原理で、地上に設置された京都大学、通信総合研究所の中波帯のレーダー電波を送受信することにより風の観測も行います。これと同じような実験は2000年に行われましたが、今回の観測によって縞々模様の大気光発生の謎にほぼ決着がつけられるのではと期待しているところです。
 この実験を行うためには三つの条件が整う必要があります。一つは弱い光を見るため闇夜であること、二つ目は地上からカメラで観測できるためには晴天でなければならないこと、三つ目はもちろん現象が現れていなければならないことで、加えてこの現象が少なくとも数時間連続して観測されることです。
 このため夜21時から日の出までを観測ロケットを発射できるように政府にお願いしました。とくに航空管制に携わる機関のご苦労は大変です。実験班にとっても待機する夜が続くかもしれません。最初のロケット発射日は、2004年1月14日です。
 この実験には東京大学、都立大学、立教大学、名古屋大学太陽地球環境研究所、京都大学、富山県立大学、九州有明高専、通信総合研究所などからの多くの研究者が参加しています。一方ではこの観測ロケット実験のために多くの政府機関に協力していただいております。直径31?、長さ7.1mの観測ロケットですが、いかに多くの大学、研究機関、政府機関が関係しているかお分かりでしょう。このロケットで得られたデータを解析して、博士論文、修士論文を書く予定の学生がいます。
 最近、寺田寅彦(1878−1935、理学博士、夏目漱石とも親交があった。)随筆集の中に『自然界の縞々模様』と題した随筆をみつけました。其の最初の部分を紹介してみます。「…ここでかりに『縞模様』と名づけたのは、空間的にある周期性をもって配列された肉眼に可視的な物質的形象をひっくるめた意味でのperiodic patternの義である…。これらの現象の多くのものは現在の物理科学の領域では其の中での極めて辺鄙な片田舎の一隅に押しやられて、ほとんど顧みる人もないような種類のものであるが、それだけにまた、将来どうして重要な研究題目とならないとも限らないという可能性を腹蔵しているものである。今までに顧みられなかったわけは、単に、今までの古典的精密科学の方法を適用するのに都合がよくないため、平たく言えばちょっと歯が立たないために、厄介なものとして敬遠され片隅に捨てられてあったもののように見受けられる。しかし、もしもこれらの問題をかみこなすに適当な『歯』すなわち『方法』が見出された暁には、形勢は一転してこれらの『骨董的」な諸現象が新生命を吹き込まれて学会の中心問題として檜舞台に押し出されないとも限らない。…」
 まさに今回の大気光縞々模様はごく最近の技術があるからこそ其の解明にせまれるものであり、ひょっとしたら、新たな展開があるかも知れないと言う氣がしています。寺田寅彦の深い洞察力にあらためて感服した次第です。(小山孝一郎)

ロケットに搭載されている機器は次の通りです。

  • 酸素原子測定器
  • 大気光測定器
  • 電子密度・温度測定器
  • 中波帯電波測定器
  • チャフ放出機構
  • 星撮像姿勢計

地上の観測機器は次のようなものです。

  • 大気光撮像装置(3 台)
  • 大気光回転温度測定器
  • 中波レーダー

ランチャにセットされたS-310-33(1月13日)

打上げの様子(1月18日)

2004年1月19日

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