太陽観測衛星「ひので」が撮影したアメリカ横断皆既日食の画像・動画を公開

ひので観測チーム


平成29年8月22日
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
自然科学研究機構 国立天文台
米国 航空宇宙局

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、自然科学研究機構国立天文台、および米国航空宇宙局(NASA)は、8月22日(日本時間)に太陽観測衛星「ひので」がアメリカ横断皆既日食の際に撮影した画像・動画を公開しました。

公開した画像・動画は、「ひので」が平成29年8月22日午前2時頃(日本時間)に高度680kmで太平洋(アメリカ西海岸沖)の上空を飛翔している際、搭載されているX線望遠鏡(XRT)で撮影したものです。X線で輝く太陽コロナを背景に、新月状態の黒い月が太陽の南西(画像の右下側)から現われ、北東(画像の左上側)に向けて太陽面を横切っていく様子がとらえられています。「ひので」から見た日食は、最大食分0.714の部分日食でした。「ひので」の飛行速度は時速約27,000kmと非常に早いため、部分日食の開始から終了まで、わずか約15分です。

皆既日食は、太陽の理解を深めることができる貴重な機会であり、「ひので」衛星は地上の観測チームと連携した観測を行いました。極域のコロナ構造やそこで頻発するジェットのメカニズムの解明を目的としたコロナ観測を行いました。また、皆既日食帯がアメリカを横断する約1時間30分の間、多数の市民の参加を得て白色光コロナの動画を作成するプロジェクト(Eclipse Megamovie 2017, https://eclipsemega.movie)と連携して、X線コロナ画像の連続撮影を行いました。皆既日食でしか観測できない白色光コロナと、「ひので」が観測するX線コロナを組み合わせることで、コロナ物質の電子密度を求めることができ、ジェット発生のメカニズムや約1時間30分にわたるコロナ構造のダイナミクスについて理解が進むことが期待されます。ここで得られる観測結果は、人工衛星や地上の電子機器に影響を及ぼす磁気嵐の原因となる太陽風や太陽フレア発生の予測につながります。

今回撮影したX線太陽画像・動画は下記からダウンロード可能です。

「ひので」がとらえた日食

皆既日食と太陽コロナ ~北米で観測されたコロナと「ひので」がとらえたコロナを比べてみよう!~

皆既日食を地上から観測するときに印象的なのは、月が太陽の全面を覆い隠している間に太陽のまわりに白く輝いて見えるコロナの姿でしょう。コロナが出す可視光はとても弱いので、普段は太陽の光球(太陽の表面)が出す強い可視光が邪魔で、見えません。皆既日食のときにのみ、その姿を見ることができます。皆既日食のときに見られるコロナの形は、太陽の活動が活発な時期と静かな時期で異なります。太陽活動が静かなときは、太陽の赤道方向に細長く伸びた形になり、活発なときは、赤道方向と極方向で均等な形になります。これは、コロナの形は太陽の磁力線と密接な関係があり、磁力線は太陽の活動が活発なときと静かなときで異なるためです。

一方、コロナは高温なので、X線を強く出しています。X線は地球の大気により吸収されるので、地上からは観測できません。「ひので」はコロナが出すX線を観測できるので、皆既日食を待たなくても、常時、コロナの姿を見ることができます。

では、皆既日食のときに可視光で見るコロナの形と、「ひので」がX線で見るコロナの形は、同じように見えるのでしょうか?今回、北米で観測された皆既日食の写真を見る機会があれば、上に公開した「ひので」がX線で見たコロナとぜひ比べてみてください。

実は、X線で見るコロナは、太陽活動が静かな時期に、赤道方向に細長く伸びる傾向があまり見られません。これは、可視光とX線とで発光のし方が違うからです。

解説:「ひので」観測データの伝送

「ひので」が取得した観測データ(テレメトリデータ)は、世界に点在する複数の地上受信局にて順次受信され、インターネット経由で神奈川県相模原市にある宇宙科学研究所に伝送されます。そこでデータ処理が施された後に公開しています。通常の観測では、取得した観測データは一旦搭載された記録レコーダに記録され、約半日から1日程度の遅れをもって順次地上局に向けて再生されます。今回は、特別対応として、日食観測の開始時に記録レコーダがほぼ空の状態になるように、記録レコーダの使用管理をしました。これによって、日食時に撮影された観測データは、取得後速やかに地上局に向けて再生することができます。観測当日の昼前には観測データが相模原に伝送され、データ処理を施したのちに、画像や動画を公開しました。

解説:「ひので」から見た月の移動の様子

地球上空を周回する「ひので」から見た、太陽に対する月の移動の様子は、地上で見るのとは異なります。「ひので」の軌道は高度約680kmの太陽同期極軌道で、常に昼夜の境目を、1周回約98分で飛行しています(右のイメージ画像を参照)。


イメージ画像(クリックで拡大)

この「ひので」の軌道から月を見ると、太陽に対する月の移動の様子は、右の図の螺旋でかいたように、まわりながら右から左へ移動していきます。螺旋が月の中心の軌道です。オレンジ色の円が太陽、破線の円は最大食分0.714の日食が見られた際の月の位置を表しています。

この図をよく見ると、そのあとにもう1回、月が太陽の右下を隠す日食が見られたことが分かります。「ひので」は昼と夜の境目(夜明けと夕暮れ)に沿って地球を周回していますので、夜明け頃に地上で日食が観察できる地域を「ひので」が通過する際と、夕暮れ頃に地上で日食が観察できる地域(大西洋)を「ひので」が通過する際に、それぞれで部分日食に遭遇しました。2回の日食の軌道を、クローズアップして見てみましょう。


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予報計算:相馬充(国立天文台)

第1回目をクローズアップしたのが、右の図です。「ひので」から見た部分日食は、月が太陽の南西(右下)から現われ、北東(左上)に向けて太陽面を横切りました。最大食分(*)が0.714、月によって覆われた部分の面積での割合いは、0.645でした。今回公開した画像・動画は、この第1回目の日食のものです。
(*)食分(r)とは、太陽と月の中心とを結ぶ直線上で月によって覆われた線分の長さの太陽の直径に対する割合い:
r = ([太陽の視半径]+[月の視半径]-[日月心間距離])/[太陽の視直径]

[第1接触] 1:50:19 (JST) (21日16:50:19 UT)
[最大] 1:57:38 (JST) (21日16:57:38 UT)
[第4接触] 2:5:39 (JST) (21日17:5:39 UT)


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図中の時刻は世界時です。
予報計算:相馬充(国立天文台)

第2回目をクローズアップしたのが右の図です。「ひので」から見た部分日食は、月が太陽の北西(右上)から現われ、南東(左下)に向けて太陽面を横切りました。

[第1接触] 4:35:42 (JST) (21日19:35:42 UT)
[最大] 4:43:28 (JST) (21日19:43:28 UT)
[第4接触] 4:50:35 (JST) (21日19:50:35 UT)


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図中の時刻は世界時です。
予報計算:相馬充(国立天文台)

「ひので」について

「ひので」は、宇宙科学研究所が開発し打上げた日本の太陽観測衛星です。国内からは国立天文台が共同研究機関として、海外からは米国航空宇宙局(NASA)および英国科学技術施設会議(STFC)が国際協力により参加して、共同開発されました。また、これらの機関に加えて、欧州宇宙機関(ESA)とノルウェー宇宙センター(NSC)が協力して、軌道上での科学運用を実施しています。

過去の観測例


宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
自然科学研究機構 国立天文台