太陽観測衛星「ひので」が遭遇した金環日食の画像・動画を公開

ひので観測チーム


平成26年10月24日
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
自然科学研究機構 国立天文台
米国 航空宇宙局

平成26年10月24日、太陽観測衛星「ひので」は、軌道上で太陽、月、「ひので」と一直線上に並び、金環日食に遭遇しました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、自然科学研究機構 国立天文台、および米国航空宇宙局(NASA)は、その際に撮影した金環日食のX線太陽画像・動画を公開しました。

 「ひので」は、10月24日午前6時53分頃(日本標準時)に高度680kmで北米上空を飛翔している際に、月による影の中(金環日食が見られる擬本影,直径187km)に入りました。この金環日食は軌道上でのみ見ることができ、地上では部分日食として北米地域(米国、カナダ)等で世界時23日に観測されました。

 公開した画像・動画は、「ひので」に搭載されているX線望遠鏡(XRT)で撮影したものです。月が太陽の西(画像の右側)から現われ、東に向けて太陽面を横切っていき、X線で輝く太陽コロナを背景に新月状態の黒い月が通過していく様子がとらえられています。「ひので」は平成18年年9月23日の打ち上げから8年を迎えていますが、これまでに軌道上で遭遇した中心食は、皆既日食1回(平成19年3月19日)と金環日食2回(平成23年1月4日と今回)であり、3回もの遭遇を経験していることは極めて珍しいといえます。

 今回の日食時には、「ひので」に搭載されている極端紫外線撮像分光装置(EIS)を用いて、太陽の極域にあるコロナホールと呼ばれる暗い領域の観測も行っています。月が太陽面を隠す日食は、望遠鏡の較正のためのデータ(観測データから散乱光の影響を取り除くためのデータ)を高精度に取得することができる貴重な機会です。望遠鏡の較正は、散乱光の影響を受けやすいコロナホールの物理状態を把握する際には特に重要です。

 今回撮影したX線太陽画像・動画は下記からダウンロード可能です。

「ひので」がとらえた日食

解説:「ひので」観測データの伝送


イメージ画像(クリックで拡大)

「ひので」が取得した観測データ(テレメトリデータ)は、世界に点在する複数の地上受信局にて順次受信され、インターネット経由で神奈川県相模原市にある宇宙科学研究所に伝送されます。そこでデータ処理が施された後に公開しています。通常の観測では、取得した観測データは一旦搭載された記録レコーダに記録され、約半日から1日程度の遅れをもって順次地上局に向けて再生されます。今回、最短の時間で観測データを公開するために、搭載された記録レコーダの使用計画を綿密に立て、観測直後に最新の画像データを地上に送信できるようにしています。

解説:「ひので」から見た月の移動の様子:


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図中の時刻は世界時です。
予報計算:相馬充(国立天文台)

地球上空を周回する「ひので」から見た、太陽に対する月の移動の様子は、地上で見るのとは異なります。 「ひので」の軌道は高度約680kmの太陽同期極軌道で、昼夜の境目を常に飛行しています。地球を1周回するのに約98分かかります。

今回の日食では、「ひので」は3回日食帯を通過しました。 第1回目は、北極地方をカナダからロシア(シベリア)にむけて移動する途中、 日食帯を横切り、約半分以上が月に隠される部分食となりました。
第1接触: 5:18:53 (JST) (20:18:53 UT)
最大: 5:25:11 (JST) (20:25:11 UT)
第4接触: 5:31:38 (JST) (20:31:38 UT)
「ひので」から見た部分日食は、月が太陽の南西(右下)から現われ、北東(左上)に向けて太陽面を横切りました。



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図中の時刻は世界時です。
予報計算:相馬充(国立天文台)

第2回目の通過にて、中心食帯に入りました。「ひので」は、アメリカ東部・カナダ・北極上空を南方から北極に向けて飛行していました。
第1接触: 6:46:18 (JST) (21:46:18 UT)
最大: 6:53:29 (JST) (21:53:29 UT)
第4接触: 7:00:38 (JST) (22:00:38 UT)
「ひので」から見た部分日食は、月が太陽の西(右)から現われ、東(左)に向けて太陽面を横切りました。 「ひので」の移動速度は時速2万7千キロと非常に早いため、部分食の開始から終了がわずか約14分しかありません。

予報によると、中心食帯には、6:53:21 (JST) (21:53:21 UT)から6:53:37 (JST)(21:53:37 UT)の約16秒間 入っていました。



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図中の時刻は世界時です。
予報計算:相馬充(国立天文台)

第3回目は、メキシコ・アメリカ・カナダを南方から北方へ移動する途中、 日食帯を横切り、太陽面の約半分弱が月に隠されました。
第1接触: 8:16:38 (JST) (23:16:38 UT)
最大: 8:22:22 (JST) (23:22:22 UT)
第4接触: 8:28:00 (JST) (23:28:00 UT)
「ひので」から見た部分日食は、月が太陽の北西(右上)から現われ、東(左)に向けて太陽面を横切りました。   


解説:「ひので」の軌道と月の影


月の影と「ひので」軌道
図中の時刻は日本時間。
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予報計算:相馬充(国立天文台)

右図は太陽から見た際の地球、月の影(半影、擬本影)、および「ひので」の軌道(点線)です。 月の影(penumbra)は「ひので」が一番近付く時刻の状態を黒線の円で描いており、擬本影(antumbra)から引いてある矢印は月の影が動く方向、地球上に書かれている赤い線は今回の日食が観測できる場所を示しています。 擬本影の円の中が金環日食になることを示しますが、擬本影がちょうど「ひので」の飛行高度(約680km)にあるときに、擬本影に「ひので」が入り金環日食を見ることができました。擬本影の直径は187kmです。今回の日食では、擬本影は地球上にはありませんでしたので、地上では部分日食のみ観測されました(最大食分81%)。

「ひので」について

「ひので」は、宇宙科学研究所が開発し打上げた日本の太陽観測衛星です。搭載された望遠鏡は、国立天文台が日本国内のパートナーとして、米国航空宇宙局(NASA)および英国素粒子物理学・天文学研究会議(STFC)が国際パートナーとして参加して、共同開発されました。また、これらの機関に加えて、欧州宇宙機関(ESA)とノルウェー宇宙局(NSC)が協力して、軌道上での科学運用を実施しています。

過去の観測例


宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
自然科学研究機構 国立天文台