2010年5月21日にIKAROSが種子島宇宙センターから打ち上げられました.
この2年間でIKAROSは私たちに本当にたくさんのものをもたらしてくれました.

まず,なんといっても宇宙ヨットを世界で初めて実証したことです.
単に帆を広げて加速しただけでなく,帆を操舵して宇宙の大海原を航行したことで,
今後の宇宙ヨットの実用に向けて大きな一歩を踏み出せました.

IKAROSが切り拓いたのは宇宙ヨットの分野に限りません.
オプション機器である,GAP,ALDNによる理学観測,VLBIによる工学実験でも
いずれも世界一級の成果を得ました.

IKAROSのさまざまな技術が今後の宇宙ミッションに応用できます.
・帆をスピンで広げる技術は,大型軽量構造物の展開に役立ちます.
・帆で空気を受ければ,ブレーキになります.
 不要となった衛星を軌道上から落下させるにはうってつけです.
・薄膜の太陽電池で発電する方式は宇宙機の軽量化・大電力化につながります.
 一般社会にもクリーンエネルギーとして広く受け入れれられるはずです.
・帆を撮影し世界に衝撃を与えたDCAMははやぶさ2では,爆破装置で小惑星に
 人工のクレータをあける瞬間をとらえる役目を担うことになっています.
・超小型衛星のガスジェットとして期待されている気液平衡スラスタも
 燃料を使い切るまで正しく機能することが確認できました.

技術だけではありません.
IKAROSはコスト・スケジュール・体制など他のJAXAプロジェクトとは大きく
異なります.大型計画が増えた結果,打ち上げ機会が減り,挑戦的なミッションが
やりにくくなってしまいました.人材育成という観点も含めて,IKAROSを参考に
様々な小型技術実証計画が真剣に検討されているのはうれしい限りです.

以上,書ききれない部分も含め,IKAROSの成果は本当に多岐にわたりますが,
次のソーラー電力セイル探査機による木星圏探査に向け分からないことも
まだまだいっぱいあります.というよりもIKAROSをやってみて課題が次々と
明らかになったという方が適当かもしれません.
これらを解決すべく,地上実験や解析を現在フル稼働していますが,やはり,
フライトデータにはかないません.IKAROSが後期運用に移行してから間もなく
1年半となりますが,そのデータはいまだに非常に価値の高いものです.
このことが関係者に広く認識されて冬眠中のIKAROSの運用継続に至りました.
IKAROSは宇宙ヨットとしての記録を伸ばすことだけが期待されているわけでは
ないのです.


皆様へ
この2年間で一番うれしかったことはたくさんの方々に宇宙探査について,
興味をもってもらえたことです.
もちろんIKAROS打ち上げ直後に帰還したはやぶさの影響が大きいですが,
IKAROSも映画に取り上げてもらえるとは,夢にも思いませんでした.
IKAROSが冬眠してからもたくさんの方にメッセージをいただき,本当に
ありがたく思います.すべて私たちの活力になっています.
まだまだ宇宙ヨットの旅は続きます.
ぜひ,これからもIKAROSを応援してください!


イカロス君へ
2歳のお誕生日おめでとう!!
分かっていたとはいえ,イカロス君が冬眠してしまうとやはり寂しいです.
また,一緒に旅を楽しみましょう!
そして,大いに私たちを悩ませてください.
みんなが君を待っています!


P.S.
・IKAROSが日本航空宇宙学会技術賞[プロジェクト部門]を受賞しました.
 IKAROSによるソーラーセイル飛行実証
 「はやぶさ」小惑星探査機の帰還・回収運用 と並んでの受賞となりました.
 その他,国内や海外の学会発表でも賞をいただきました.
・相模原で少しだけ日食を見ることができました.
 改めて太陽の光の強さを実感しました.