本日の臼田局運用では,256bpsの通信レートが確保でき,
通信不可帯時のデータ再生が一気に進みました.
また,新たな姿勢・軌道計画に向け,まずは,スピンレートを
調整しました.
オプション機器では,ALDN(アラジン)の立ち上げを行い,
宇宙塵の観測を再開しました.GAPによるガンマ線バーストの
偏光観測は今週末以降の復帰となります.VLBI実験はアンテナ
が上面にあるため,しばらくお休みです.

さて,8/25のブログで,IKAROS技術の超小型衛星への応用に
ついて前半を紹介しましたが,久しぶりに後半を書きます.


「気液平衡スラスタ」

積極的に位置・姿勢を制御する必要がある衛星は,推進系を
搭載します.ミッションの複雑化に伴い,近々,超小型衛星
にも推進系が必要になると考えられます.

最もよく使われている推進系は,「ホットガス」で,
ヒドラジンを燃焼させて噴射します.しかし,ヒドラジンは
有毒ですので取り扱いには特殊な資格が必要です.
有毒でない燃料に変更するという手がありますが,
いずれにしても可燃性の燃料というのは危険を伴います.

次によく使われるのが,「コールドガス」です.
窒素等のガスをタンクに封入し,少しずつ噴射します.
高圧システムになりますので,取り扱いが大変です.
また,リーク発生によりミッションへダメージを与える
リスクが高まります.

これら以外には,はやぶさ等で用いられた「電気推進」が
ありますが,超小型衛星に適用するには,システムが複雑
であるため,越えるべきハードルがいくつかありそうです.
超小型衛星に適用するとはいえ,推力が小さいことも
気になるところです.

一方,IKAROSでは「気液平衡スラスタ」を採用しています.
液体として燃料をタンクに貯蔵し,気体(蒸気)として
噴射します(スプレーのようなイメージです).
IKAROSでは,燃料にHFC134aという代替フロンを用いています.
水も燃料となり得ます.適切に燃料を選ぶことによって
無毒・不燃性・低圧の推進系となり安全で,安価にできます.
これならば,大学の施設でも十分開発できそうですね.

ただし,いくつか課題もあるので,少し紹介します.

気液平衡スラスタの噴射ガスに液体燃料が混ざるのはNGで,
すぐ燃料切れになります.推力も大きくなってしまいます.
地上では重力があるため,液体は下,気体は上に容易に
分離できます(スプレーやライターを想像してください).
しかし,宇宙では,別の仕掛けが必要です.この対策の
一つとして,IKAROSのタンクには発泡金属が入っています.
この発泡金属が液体燃料を保持して,タンクから出て
いかないようにしているのです(たわしのイメージです).

また,気液平衡スラスタは,噴射するたびに液体燃料が気化
するため気化熱を奪われ,蒸気圧が低下し推力も下がります.
そこで,タンク表面に取り付けたヒータの熱を燃料に素早く
伝える必要があります.ここでもタンク内に入っている
発泡金属が活躍します.発泡金属は金属ですので熱伝導性に
すぐれ,燃料を一様に一定温度にすることに役立ちます.

気液平衡スラスタを搭載した宇宙機は,他にもありますが,
気液平衡スラスタの各課題を克服して,安定的に運転したのは
IKAROSが初めてと言ってよいでしょう.
本日のスピンレート調整も,気液平衡スラスタの仕事です(O).


9/28のIKAROS
太陽距離: 0.90AU
地球距離: 30830010km, 赤経=-124.2°, 赤緯=-27.9°
金星距離: 0.21AU
姿勢:スピンレート=1.4rpm, 太陽角=22.8deg

Today's IKAROS
Sun Distance: 0.90AU
Earth Distance: 30830010km, RA=-124.2deg, Dec=-27.9deg
Venus Distance: 0.21AU
Attitude: Spin Rate=1.4rpm, Sun Angle=22.8deg