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第72号 1999年10月15日発行

目次


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動き始めた新スーパーコンピュータ VPP800

 本年3月に新スーパーコンピュータ VPP800 が富士通(株)より納入され、6月より本格的な運用に入っています。当初から利用者も多く、またおおむね期待した性能が発揮されており、導入手続きに携わったものの一人としては一安心といったところです。さて、本稿ではこの VPP800 という計算機についてお話してみましょう。

 宇宙研に導入された VPP800 は 8 GFLOPS の演算性能を持つベクトル型のプロセッサ (PE) が12台から構成されており、 総合ピーク性能として 96 GFLOPS のコンピュータです。分類で言うと、ベクトル並列型スーパーコンピュータといいます。これがどの程度の性能かを知っていただくためにパソコンと比較しましょう。おおまかに言って、最高レベルの PentiumII や III パソコンの演算性能は実効で 50 MFLOPS 程度です。スーパーコンピュータ(以下スパコンと呼びます)でも実効性能はピーク性能に対して半分以下に落ちることを考えると、およそ 1 PE で 40-50 台分、全体で 400-500 台分の性能となっています。パソコン 500 台の方がスパコンよりも安いのですが、残念ながらそれらをつないでもスパコンの性能は出せません。宇宙研の VPP800 のメモリーは PE あたり 8 GB のものが 8 台、16 GB のものが 4 台あり、全体で 128 GB となっています。ディスク容量ではなくメモリー容量ですのでお間違いなく。ちなみにスカラー演算器もかなりの性能ですので、高速演算を期待される方と同時に巨大なメモリーを必要とする方にもメリットのあるコンピュータです。 ディスクアクセスを頻繁に行うジョブをお持ちの方は一度試されたらいかがでしょうか。

 VPP800 はこれまで使っていた VPP500 と同じ分散メモリー型のスパコンです。12 個それぞれのプロセッサにメモリーがついていて、全体はクロスバーと呼ばれる毎秒数ギガバイトのデータ転送速度を持つ計算機内高速ネットワークで結ばれています。VPP500 との大きな違いは、性能がおよそ 10 倍になった以外にメモリーに SDRAM を、半導体にCMOS 技術を利用していることです。これによって低価格で高い性能、そして電力消費をかなり押さえることができています。もちろんディメリットもありますが、そこをソフトウェア技術でカバーしているといったところでしょうか。

 昨年は国産 3 社がそれぞれ新しいスパコンを発表しました。1 プロセッサのカタログ性能はおおむね各社同じです。 VPP800 は宇宙研と京都大学だけに納入され、続いて富士通(株)は VPP5000 を発表しました。VPP800 と VPP5000 は演算器のクロックが 2 割違う点を除いてはほぼ同じスパコンですから、VPP5000 の性能の方が単純に 2 割高いことになります。現時点では宇宙研のスパコンはかなりの性能ですが、本年度中には国内各大学や研究機関に、より高性能のものが導入されます。予算の制限などから致し方ない面はあるのですが、残念ながら宇宙研のスパコンは決して先端的なスパコンではないわけです。ちなみに東京大学では 1 TFLOPS、1 TB のスパコン(宇宙研のおよそ10倍)が、京都大学でも 0.5 TFLOPS, 0.5 TB のスパコンがすでに稼働しています。宇宙研としては、限られた資源ではありますが、ジョブクラスや運用を工夫して使い勝手で一番を目指したいところです。

 さて、世界のスパコン事情はどうなっているのでしょうか。1 つのプロセッサが先端的な性能を出せるものをスパコンと考えると、かつては CRAY という米国製スパコン名機がありましたが、現在では、富士通、日立、NEC の国産 3 社だけです。単体性能に限界があるため、かなり以前から米国などではそれなりの性能のプロセッサを数多く並べて同じ性能を出す方向に転換しています。先端的な性能を持つものでは、国がサポートするアスキー計画として軍事、エネルギー関連の重要拠点に巨大コンピュータが入っています。例えば Los Alamos 研究所には SGI社の ORIGIN2000 と呼ばれるコンピュータが入りましたが、何と 6044 のプロセッサを結んで 1 台構成となっています。最近ではこれらも含めてスーパーコンピュータと呼ばずに広く HPC (High Performance Computer) と呼ぶように変わってきています。

(藤井 孝藏)


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多波長天文データ表示サービス MAISON のテスト公開開始

 PLAIN センターニュース第 67 号 (1999年5月14日発行)で簡単に紹介しましたが、PLAIN センターでは、国立天文台 天文学データ解析計算センター(ADAC)と共同で、計算機ネットワーク上でのアーカイブ画像データの早見表示システムのサーバの開発を行なっています。このシステムは、"Multiband Astronomical Imaging Service ON-line" の頭文字を取って、MAISON (メゾン) システムと命名されています。この度、10月1日にそのテスト公開を開始致しました ( http://maison.isas.ac.jp)。いくつかの問題点が未解決で残されたままのテスト公開であり、またその他にも我々の認識していない問題点が散見されることと思います。皆様方からの御意見をお待ちしています。

 以下、MAISON が提供するサービスについて簡単に紹介致します。

 MAISON のサービスの最大の特長は、ASCA の観測画像データを可視光や遠赤外の全天サーベイ観測の画像と重ね合わせて早見することができる、という「画像の重ね合わせ表示機能」を備えていることです。同様の機能をもつサービスとしては、NASA/GSFC の SkyView システムが既に有名ですが、SkyView ではサポートされていない、MAISON独自の特長は、取り扱うデータが (SkyView のように) サーベイ観測のデータだけではなく、ASCA などの通常のターゲットポインティング観測のデータをも含んでいる、という点にあります。PLAIN センターでは、海外のターゲットポインティング観測のデータをミラーリングし、アーカイブデータの拡充を図ろうとしています。また ADAC においても、HST のアーカイブデータの公開を始めています。このような状況の中で、MAISON の持つこの特長は今後より一層その威力を発揮するものになると考えています。また将来的には、ASTRO-EASTRO-F、すばる望遠鏡などのアーカイブデータの検索においても、MAISON が更に発展し、この特長を生かしたサービスを提供していけることを期待しています。

 MAISON の役割は、ユーザと計算機ネットワーク上のリモート画像サーバ (例えば DARTS など) との間の、いわばブローカーのようなものです。処理の流れの概要は図 1 のようになります。まずユーザは、リモート画像サーバに直接アクセスする代わりに、MAISON にアクセスし、画像早見を行ないたいリモートサーバ及び天球座標位置などの情報を入力します (指定できるリモートサーバは、我々があらかじめ MAISON に登録しているもの(後出)に限定されますが、登録されているものであれば同時にいくつ指定しても構いません)。MAISON はこの入力情報を元に、指定された各リモートサーバにアクセスし、必要な画像の配信を受けます。どのような画像が得られたかという情報は、リストとして一度ユーザに提示されます。ユーザはそのリストの中から、早見を行ないたい画像を選択します。早見表示の機能としては、通常の単独の画像の表示と上述の重ね合わせ表示(グレースケールとコントア)の二つの機能があります。ユーザの希望に応じて必要な画像の処理を施して、最終的にブラウザ上に結果の画像を表示します(例 図 2 参照)。 表示された画像に対しては、色調調整や拡大縮小などの機能も一部サポートされています。

 1999 年 9 月現在で、MAISON がサポートしているアーカイブ画像データ及びそれらのサーバとなる機関は以下の通りです。サポートデータはこの他にも今後拡充されていく予定です。

o ターゲットポインティング観測データ

 ASCA (PLAINセンター)

o サーベイ観測データ

 Digitized Sky Survey 1 (ADAC)

 Digitized Sky Survey 2 (ADAC)

 IRAS Sky Survey Atlas 12,25,60,100um  (ADAC)

 Green Bank Sky Map at 1400MHz (ADAC)

 Green Bank Sky Map at 4850MHz (ADAC)

 MAISON に関しては、改良を要する課題がまだ多く残されています。最も主要な課題は、各プロセスの処理時間を短縮することです。現在のテスト公開の段階では、各プロセスで数分間の時間を要する場合があります。リモートサーバからの検索結果のリスト情報や画像データなどの送信に時間がかかることにつきましては、ブローカーとしての MAISON の立場からは有効な対応策がとれません。しかし、現在サポートされているリモートサーバはすべてPLAIN センターと ADAC のものであることから、これらのサーバの機能の改善に踏み込むことは可能であり、また実際にこれらのサーバはいずれも画像データを発信する際の時間の短縮化について改良の検討の余地が残っていると考えられます。最優先課題として、今後この問題に対応していくことを検討しています。

 この他にも画像表示上の不都合やバグの修正、諸機能の充実化など、改良・開発を行なわなければならない課題が多く残っています。MAISON の機能の更なる向上を図るべく、今後とも開発作業を継続していきたいと考えています。


図 1  MAISON によるデータ処理の流れの概要



図 2  Digitized Sky Survey 1 の 画像に ASCA で観測された X 線強度を等高線マップとして重ね描きしたもの。
 

(渡辺 大、三浦 昭)


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大型計算機に関するお知らせ

1.大型計算機の10月・11月の保守作業の予定

 10 月の定期保守は Alpha サーバの予定ですが今回は中止します。

 11 月の定期保守は 11 月 15 日(月)の 8:00〜 13:00 の間に GS8300 / 10N の保守作業を行います。


2.計算機利用手引の完成

 大型計算機のリプレースに関しては大変ご協力を頂き、スムーズに移行が出来ました。その後全計算機システム共順調に運転して居ります。 リプレースによる計算機システムの更新に伴ない、利用手引も全面的に改定を行ない印刷中ですので、ニュースの出る頃には配布出来ると思います。

1)計算機利用の手引 規則編(ネットワークの利用も含む) 発行日 '99・10

2)VPP 800/12 利用の手引 操作編  発行日 '99・10

3)計算機利用の手引 操作編 MSP 発行日 '99・ 9

4)計算機利用の手引 操作編 UNIX サーバ群 発行日 '99・10


 各研究室及びプロジェクトグループには各編1部ずつ配布しますが、多少の残数が有りますので、希望される方は申し込んで下さい。


3.VPP800 機能向上のための運用停止について

 VPP800 の機能向上(SVP ファームアップ・ディスクスライス変更・OS の PTF アップ・言語製品レベルアップ)のため下記の日時に運用停止します。

  11 月 20 日(土)9:00 〜 23 日(火)終日

(関口 豊)


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