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第73号 1999年11月12日発行

目次


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KSC34mアンテナの紹介

 昨年11月に KSC に完成した34mアンテナの紹介記事を書け、とのご指名があり、本来ならば廣澤先生、市川満先生にお願いすべきだと申し上げたのですが、まじめに紹介するのは結構面倒なこともあり、結局私が書くはめになってしまいました。 PI の先生方からも KSC34mアンテナのことがよく分からない、とのご意見がございますので、いい機会なので、ここで簡単にご説明しようと思います。

 まず、何はともあれ、 KSC34mアンテナの外観をご覧頂くのが一番かと思います(図1参照)。写真は KSC の豊留さんに撮って頂いたものですが、私が説明用の文字を加えてしまったため、せっかくの芸術性が大分損なわれてしまったことをお許し下さい。アンテナの設置場所は、テレメータ台地の旧18mアンテナが建っていた場所で、同アンテナは34mアンテナの設置直前に残念ながら撤去されることとなりました。敷地が限られていることもあり、20mアンテナ同様、アンテナペデスタル(アンテナ局舎)の上にアンテナが乗っかったような構造となっています。ペデスタルとは言え、その大きさは44m×29mもあります。そのため、送受信機等の各種機器を納める機器室のスペースは十分すぎるほど広く、管制室(図2)もペデスタルの中に作られています。まだまだスペースに余裕があるため、老朽化している SA テレメータセンタ内の20m用の機器も将来移設収納する予定です。



図 1




図 2


 KSC34mアンテナの守備範囲についてですが、基本的には ASTRO-E 以降の近地球衛星の追跡運用が主な仕事になります。これは現在の20mアンテナの運用スケジュールがぎゅうぎゅう詰めで、これ以上負荷を増やせない危機的状況からして当然の要求と考えられます。ですが、これだけ口径が大きいと深宇宙探査機追跡用のアンテナとしても使えるようにしたくなるのが人情というものです。担当メーカーの方々には相当な無理をお願いし、臼田64mアンテナのバックアップ運用ができるような機能性能を備えてもらいました。実際に“のぞみ”のアップリンク運用を行う事も計画されています。表1に KSC34mと20mのアンテナの性能比較を示しておきます。アンテナ利得だけで約 4dB の性能アップで、このほど市川満先生のお陰でXバンド用の新型低雑音増幅器が導入されましたので、これを含めて総合的なアンテナ性能を計算すると、Xバンドでは約 6dB も性能が向上していることになります。もっとも臼田64mアンテナもだてに大きい訳ではなく、これより更に6dB 高性能です。なお、アンテナ雑音温度だけ見ると、Xバンドの性能が 20mより若干劣っていますが、これは MUSES-C 以降の深宇宙探査機のアップリンクがXバンドに移行することにアンテナ給電装置として対応できるようにするため、送受信号分波フィルタが予め挿入されているためです。鹿児島に設置されるアンテナの宿命で、強烈な台風の洗礼を受ける可能性がありますので、耐風性能は瞬間最大風速90mに耐えること、という厳しい条件が課せられており、写真では分かりにくいのですが、各部の部材の太さは20mアンテナに比べると相当違います。そのため総重量はなんと3倍近い820トンにもなってしまいました。これだけ大きなアンテナを周回衛星の追跡に使えるよう方位角方向で5度毎秒、 仰角方向で 2.5 度毎秒というとてつもない高速で動かすことができ、しかも Ka バンドでの追尾が可能な高精度マウントを備えているというのは世界的にもあまり例がなく、この点については見学者が現れる度に市川満先生が自慢しておられます。



表 1


 この他、20mアンテナには備わっていない機能としては、1) Ka バンド(17.2〜17.3GHz)受信給電装置を装備していること、2)Xバンド捕捉アンテナ(送信及び受信)を装備していること、3)捕捉専用受信機を備えていること(20mはメインビームとの切り替え式)、4)高速 QPSK 復調器(最大シンボルレート10 Msps )を備えていること、5)デジタル化された高性能受信機を備えていること、6)新開発の高性能レンジング装置の導入、等々枚挙にいとまがありません。1)の Ka バンド給電装置は、次世代の近地球衛星で、より高速のテレメトリビットレートが要求された場合に、対応できるようにするためのもので、帯域幅が100Mzまで取れますので、 QPSK 方式の採用で“はるか”と同じ128Mbpsのビットレートが達成可能です。 Ka バンドでの受信性能も口径25m相当の性能を有しておりますので、“はるか”の Ku バンドアンテナ(口径45cmパラボラ)よりずっと小型のアンテナを簡易的に指向制御する仕掛けを衛星側に持つだけで、上記ビットレートを容易に達成できるだろうと予測しています(残念ながらこれだけ高速のレートが欲しいと言う近地球衛星がまだ現れておりませんが・・・)。

 最後に PI の方々の誤解を解くためにも、20mアンテナで現在追跡運用を行っている旧タイプの衛星のバックアップ運用の可能性について触れておきます。井上浩三郎さんの名案で、34mのペデスタルには相模原で使用していた試験装置を運び込み、受信復調まではローカルではできるようになっています。コマンドやテレメトリの相模原とのやりとりは、20m系と伝送系の接続替えを行えば可能なように近々改修される予定です。レンジアンドレンジレートデータの伝送に関しては独立の伝送ルートがありますので相模原への伝送が問題なく行えます。問題は PI 用の旧タイプの QL 装置が2式ない、という点でこれについては、元々の34mの守備範囲についての考え方、旧タイプの衛星がいつまで運用されるか、等々の要素も含め、予算規模とのからみで総合的な判断のもとに、現状のような状態になっている、とお考え頂きたいと思います。従って、旧タイプの衛星に関しては、20mアンテナがダウンした場合には QL 装置の入力を34m系に切り替える事でバックアップに回るようにする事はできますが、20mの運用が込み合っているからといって、34mに回れば運用時間がもっと確保できる、という訳ではありません。QL 装置、伝送系が切り替え式である限り、旧タイプ衛星同士の時間の競合の問題は残ってしまうからです。この点については是非誤解の無いようにお願い致します。

(山本 善一)


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ADASS '99 レポート

 去る10月初旬に、ハワイにて ADASS '99 (Ninth Conference on Astronomical Data Analysis Software and Systems) という国際会議が開催されました。この会議は天文関連の技術やデータ解析、データベース等のセッションからなっており、PLAIN センターからはサイエンスデータベース DARTS の発表を行なってきました。

 ADASS '99は、10月3日から6日まで開催され、その初日には主催者である Canada-France-Hawaii Telescope の望遠鏡と、国立天文台のすばる望遠鏡の見学ツアーが組まれました。翌日からは各セッションに分かれての発表が行なわれました。データベース関連の分野では、分散データシステムのセッションが独立して設けられていました。DARTS は当初より、ASCAYOHKOH 等のデータベースを一貫したインタフェースで利用できるよう開発してきた経緯もあり、この点については多くの参加者に興味を持ってもらえたようです。

 その他にも、ソフトウェア開発手法や、python, Tck/Tk 等のスクリプティング言語のセッションもあり、この会議で得られた情報は、今後の DARTS や MAISON の開発にも大いに役立つものと思われます。

 当然のことながら、観測等の天文に直接関係したセッションも多々あったのですが、今回はデータベースに関連したテーマに絞って報告させて頂きました。 (三浦 昭)


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新人紹介

 10月1日付けで宇宙科学企画情報解析センターの助手に着任しました。これまで京大工(超高層)松本紘教授の下で博士号取得後、富山県大工・岡田敏美教授に二年半助手として使って頂きました。この間、Geotail/Akebono観測と数値実験による地球惑星電波の研究に関わると共に、火星探査機Nozomiに搭載されるプラズマ波動観測装置の開発を行ってきました。衛星運用でさんざんお世話になったB棟3Fが居室とあって、どうもまだ出張に来ているという印象です。

 これまで、工学部出身者かつ地方大学研究者として外から注文をつける立場でした。データと解析ツールの入手は私のような地方研究者(や新規参入者たる他分野研究者や学生)にとって事実上の参入障壁で、オンラインサービスの充実は日本の宇宙科学の体力を左右する問題だと思っていました。これを研究者自身が構築することを考えると、センター集中型よりネットワーク型の分散データベース構築を支援するような体制を確立したほうがよかろうと考えてきたのですが、注文は実行しなければいけない立場になってしまったわけです。関西・北陸の先生方や学生諸君に「外にいた時はうるさかったのに・・・」と言われることなきよう、いろいろな意味で曲がり角にある本研究所と関係諸機関の方々に全力で貢献していきたいと思います。

(笠羽 康正)


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大型計算機に関するお知らせ

1.大型計算機の11月・12月の保守作業の予定

 11月の定期保守は11月15日(月)の8:00〜13:00の間にGS8300/10Nの保守作業を行います。

 12月の定期保守はVPP800/12の予定ですが、年末にSE・CE合同保守作業を予定して居りますので今回は中止します。


2.VPP800機能向上のための運用停止について

 VPP800の機能向上(SVPファームアップ・ディスクスライス変更・OSのPTFアップ・言語製品レベルアップ)のため下記の日時に運用停止します。


11月20日(土)9:00〜 23日(火)終日


 上記作業をスムーズに行うために19日(金)9:00にSIMPLEXモードへ移行、18:00にキュー停止を行います。


3..年末・年始のスケジュール

 年末・年始の運転・保守作業スケジュールは現在検討中ですので、12月号のニュースでお知らせします。

(関口 豊)


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編集発行:文部省宇宙科学研究所
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