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第19号 1995年5月10日発行

目次


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NASAデータセンタ訪問記

 科学衛星の取得したデータは、そのまま大発見に繋がるものから、じっくり時間を掛けて解析して新しい発見になるものまで様々であり、衛星のミッションライフが終わった後でもまだまだ十分利用価値の高いデータだと言えます。そのため、各プロジェクトに関連する科学者だけではなく広く一般の科学者が利用することが許されるようになったデータは、アーカイバル・データとして主だったデータベースセンターに置かれるようになってきています。宇宙研PLAINセンターでも、このような「サイエンス・データベース」構築をひとつの柱に掲げ、1〜2年程前から何をすべきか、何が出来るか等を考えてきています。特に、平成7年3月に開催されましたサイエンス・データベースのシンポジュウムでは活発な議論がなされ、これまで予想もしなかった問題点も出てきておりますが、徐々に方向が見えてきたような気がいたします。現在1テラバイト程度のファイルサーバーシステムの概算予算要求を具体的に検討しております。

 さて、3月下旬にNASAのゴダード宇宙飛行センターにあるデータセンター(NSSDC)を見学してきたので、宇宙研でのサイエンス・データベース構想に絡めて感想を御報告したいと思います。約1年ほどまえにもNSSDCを訪問していますが、その時はおもに国際太陽地球系物理学計画(ISTP)に関連した地球物理関連のデータ業務の打ち合わせでしたが、今回は赤外、X線ガンマ線、太陽物理、スペースプラズマ物理等の分野でデータベース構築に関わっている科学者と情報を交換し、具体的にNSSDCではどのような作業がなされているのか見学してきました。

 今回NSSDCで感心したのは、WWWサーバーにアクセスすることによってデータ検索が出来るようなシステムに移行しており、使い方の説明なしで初心者でも簡単にアクセス出来る形態になっていることです。このようなシステムは最近の流行で、一般にグラフィック表示を伴った検索情報が階層構造になっております。サーバーマシンにアクセスして最初に現れる最上位のホームページで、どのような情報が収納されているのかが容易に把握できるようになっており、そして目的に応じて必要な項目を選択すると次の階層の情報が取り出せるようになっています。最終的に取り出したい項目に到達すると即座に可視化されたデータが取り出せるようになっています。また、データによっては、そこで適当なアドレス情報を入力しておくと、後でDATやCD-ROM等のオフラインやネーットワーク経由でデータを転送してもらえるようになっております。このフレンドリーなユーザインタフェイスの開発には、各プロジェクトごとに2名程度の科学者が従事しており、また同時にその人達がデータをひとつひとつ吟味しながらファイル・サーバにデータをアーカイブしております。また、コンピュータ・システムを運用・管理している専門家が数名、データの可視化ソフトウェア等を改良・開発している技術者が数名、データフォマットの開発を行っているグループ、オフライン・サービスのグループなど本当に多くの人達が働いており、簡単に情報が取り出せるようになってもその裏では大変な努力があることが解ります。

 衛星が取得した生データはそのままでは科学研究に使うことは難しく、各観測機器の担当科学者が多大の時間を掛けて、一般の科学者が観測機器の特性を知らなくても安心して使える物理量に変換されています。そして、そのデータを公開しようとするとまた別の労力を必要とします。衛星観測が巨費を投じて行われるようになった現在では、データの有効利用を考えるとこのデータ公開にもまとまった予算・人員が必要になってきたようです。
(星野 真弘) 


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新人紹介

 PLAINセンターに、新たに加わった2人の新人を紹介します。一人は、三浦 昭助手です。三浦君は電気の博士課程を終えたばかりの新進気鋭の研究者で、趣味の一つがパソコンという、正に当センター向きの人材です。もう一人は、長木明成技官です。長木君は学部及び研究生時代を通して、物理屋さんでしたが、オールラウンドの実力を認められPLAINセンターに応募した多数のコンペティターの中から選ばれたエリートです。

 今、PLAINセンターでは、3台のメインフレームの更新、ネットワークの飛躍的な充実、サイエンスデータベースの構築、ワークステーションによる分散化処理、SIRIUSのUNIX化等、多くの緊急課題が2人を待っています。この2人の新人の活躍を期待すると共に、2人への皆さんの暖かい御指導、御支援を、私からも、お願い申し上げます。
(中谷 一郎) 


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あすか」衛星の運用とデータ処理
ー(その3)長期・短期観測計画の作成

 前回は公募観測の広報から選考結果の通知まで、「あすか」の観測公募の流れを説明した。今回は採択された応募観測全体を一定期間に効率良く行うための観測計画の立案方法について説明する。

 前回述べたように公募は半年、または1年の期間を対象に行われる。観測期間が半年の場合は採択ターゲット数は180ー200個、1年の場合は約350個となる。中には半日で済む観測もあれば、時には1週間連続して観測する大プロジェクトもあるが、平均して1日1個のX線天体を観測することになる。そしてさまざまな制約から、個々の天体を観測出来る時期は制限される。効率良く観測を行うために、観測計画の最適化をするためにSPIKE Scheduler と呼ばれるワークステーション搭載プログラムを使用する。このSPIKE を用いて、採択ターゲット一覧表を基に半年または1年間の観測計画を立案し、これに基づいて毎日の衛星運用を行う過程を図3の流れ図に示す。

 この観測計画立案の心臓部になるのは、SPIKE Scheduler と "ODB" (Observation Data Base) handling systemである。 採択ターゲットの登録から観測日報まで、衛星運用の各過程での情報を管理し、これを系統的に次のステップに引き継ぎ、または前のステップにフィードバックをかけるための情報管理部として "ODB" (Observation Data Base) が置かれる。そして各ファイル、各ソフトウエアーとの間でデータのやり取りをする I/O Interface がこの ODB に付随する。この ODB のフォーマットとI/O Interface は「ぎんが」以来の付き合いから、イギリスのレスター大学の協力を得て作成、構築した。

 SPIKE Scheduler は STScI (Space Telescope Science Institute) が本来ハッブル宇宙望遠鏡の観測プラン作成用に開発した Mission Planning/Scheduling Software であるが、専用インターフェースを取り付けることによりどの衛星でも使用できるよう汎用に作成されている。"ASCA Interface" は MIT の協力によって作成され、これの管理、運転のための要員は NASA/Goddard Space Flight Center から派遣されている。 SPIKE はLISP で書かれ DEC-Station 上で走るソフトで、Scheduler本体 (SPIKE)、Graphic Display Interface (Gina)、Interactive User's Interface (CLM) で構成されている。

 SPIKE Scheduler はさまざまな制約を有する多数の観測ターゲットに対して、個々のターゲットの観測最適時期、観測適合時期を計算し、全観測項目を一定期間に遂行するための観測順序の最適化を行う。必要な情報として、各観測天体の座標(赤経、赤緯)、観測時間(割り当て露出時間)、優先順位、観測モード、天体の種別、等が入力される。そして SPIKE には全期間(6ー12ヵ月)の観測ターゲットを1週間単位で割り付ける長期観測プラン立案モードと、1週間ー10日毎に詳細な割り付けをする短期観測プラン立案モードとがある。「あすか」の場合に加味される制約条件は、太陽パドルおよび SIS センサーから要請される観測天体と太陽の角度、軌道予測からの KSC contact および DSN down-link の時刻、星姿勢計と月の角度、South Atlantic Anomary 通過時刻、観測天体の地没時刻、磁気バブル記録装置の容量、観測者からの要請(他衛星、望遠鏡との同時観測、連星の特定公転位相での観測など)等である。

 短期観測プランが作成されると、姿勢制御開始時刻などの詳細な情報が付加されて、これらの衛星運用に必要な情報が ODB で管理されるとともに日々の運用ソフトに引き継がれ、マヌーバーパラメーターやコマンド系列の作成が行われ、これに基づいて衛星の運用が行われる。この衛星運用コマンド作成手順の詳細は次回に述べる。

 緊急な TOO (Target of Opportunity) 観測等を入れる必要が生ずると、その該当する週の短期観測プランが SPIKE Scheduler によって修正される。このような臨時観測によってはみ出したり、台風や地上設備の故障で中止になった観測の再観測や、DSN down-link の失敗や中止で欠足した観測の補充のために、長期観測プランは時々 Update される。このような修正、変更を手早く行うためにも computer-aid の scheduling は大いに役立つ。


図3 採択された観測ターゲット一覧を基に長期および短期の観測計画を作成し、これに基づいて日々の運用プランを作成する、「あすか」の観測・運用の流れ図。

(長瀬 文昭)


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