PLAINセンターニュース第151号
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内之浦での「すざく」追跡

田村 隆幸、村上 弘志
PLAIN センター


  「それでは、すざく入感 10 分前になりましたので、準備確認をおこないます」「コマンド運用」、「OKです」、「34mアンテナ」、「OKです」、「局運用管制」、「OKです」、、、「このパスでは、データリプロ、アンテナ切れ込み対策、アンテナ反転をおこないます」。そうです。2006年2月20日から3月5日まで、「すざく」の運用・追跡で内之浦宇宙空間観測センター (鹿児島県肝属郡肝属町) に来ています。この機会に追跡の様子をレポートします。

 2005年の7月に打ち上げられた X 線天文衛星「すざく」は現在も順調に観測を続けています。衛星は、高度約 550 km を飛び、約 100 分で地球を1周します。1日の 15 周回のうち、日本から適当な角度で衛星と交信できるのは、5 周分ほどで、それぞれ約10分間です。この時間をコンタクト (あるいは「可視」と呼びます) と呼んでいます。たとえば、ある日の場合、18:20、20:00、21:42、23:24、25:05、がコンタクト開始でした。この時間は、日々ずれていきます。2週間で、約 3 周回分(5時間)、前にきます。コンタクトの間に、衛星の健康状態を確認し、データを受信し、運用コマンドを送信します。「すざく」の場合、平均して1日に1天体を観測します。たとえば、最近では、ブラックホール、銀河間のガス、太陽系惑星を観測しました。これらの運用のため、内之浦には2名の研究者が交代で常駐しています。おおよそ2週間のお勤めです。


運用室の様子(打上げ前)

 もう少し運用の話を続けます。衛星に送る運用プランは、毎日、相模原の2名の当番(スタッフと大学院生) が作ります。プランは、おもにその場で実行されるリアルコマンドと実行される順番(時刻)が指定される運用プログラム (OP) からなります。たとえば、新しい天体に向かう場合は、姿勢の制御のための星カタログの登録、姿勢の変更 (マヌーバ)、検出器のモードの切り替えなどを行います。このプランは、検出器チームと内之浦の当番(我々)が再確認します。「すざく」の場合、コマンド作成の手法やツール類がしっかりしていることもあり、ほとんどの場合、問題なしです。時には間違いや修正があり、プランを作り直します。コマンドは運用専用ネットワークと計算機を経由して、管制系に送られます。衛星の入感(交信が始まる時間)の 10 分前には、準備の確認(本記事の冒頭部分)をおこないます。内之浦当番の一名が、全体を指揮し、もう一名は観測機器や姿勢系などのモニターを行います。加えて、コマンド、アンテナ、運用管制の担当者が張り付きます。

 「すざく」は、S と X と呼ばれる2帯域の通信系を用いています。S バンドは、主にリアルデータの受信と運用プログラムの送信に、X バンドは、再生データの受信に用います。通信には、管制室の上に設置されている直径 34m のアンテナを用います。受信状態が安定すると、衛星機器の各種の状態をモニターします。その後、保存されているデータを再生、受信します。地上と衛星のアンテナの角度によっては、一時的に受信が途切れることがあります。さらに、運用プログラムや姿勢情報を送信し、衛星上のメモリに書き込みます。それぞれの書き込みとその照合には、5 分程度かかります。その間に、コンタクト中のリアルデータを受信し、簡単な解析もおこないます。また、毎日、1-2 回は、衛星と地上との距離・軌道を実測(レンジング)します。順調に進むと、交信が終わる「消感」まで数分間は、待機します。衛星との仰角が約 10 度になったところで、「消感」前の状態確認をおこないます。そして、「消感」です。

 受信の後には、コンタクト中のデータに再生データを加えて解析を行います。衛星の機器(たとえばバッテリー)や観測に問題がないか調べます。ここでの解析結果の一部は、自動的に検出器チームに送られます。問題がある場合には、我々と検出器チームが即時に対応します (ところで、このデータ処理には時には1時間以上かかります。これが、数分でできるような高速の計算機があると便利です)。各パスと1日の状況は、「運用記録」として A4/1-2 枚にまとめられ、国内外の「すざく」チームに転送されます。


資料に目を通す村上プロジェクト研究員

 観測所は、台地の上にあり、太平洋に張り出しています。糸川先生らによって、「陸、空、海」の条件から選ばれ、1962年に設置されました (詳しくは、宇宙研ホームページ 「日本の宇宙開発の歴史」を参考に)。運用当番は、管制所のとなりにある宿泊施設で寝泊りします。部屋からは、太平洋を一望でき、水平線からの日の出も見えます。朝、昼、夕の食事は賄いのおばちゃんが美味しく作ってくれます。我々のリクエストにも答えてくれ、新鮮な刺身なども食べられます。運用は、日曜が休みです。休みの日には、みなさん、車で10分くらいの内之浦地区に下ります。昼はラーメンを食べ、買い物をして、海沿いの温泉に入り、夜は「網元」という地魚料理の店で豪華なご飯を食べるのが、定番です。元気の良い人は、レンタカーを借りて、近郊の温泉などに行きます。


内之浦の日の出

 内之浦での「すざく」追跡の様子をレポートしました。ここでの生活は、やるべきことはっきりしており、余計なものはあまりありません。楽しくやりがいのある仕事です。衛星の運用が多くの人々の献身的な仕事で成り立っていることが実感できます。それでは無事2週間のお勤めを果たしましたので、「消感」します。


内之浦宇宙空間観測センターとロケット打上げ施設



平成17年度宇宙科学情報解析センター運営委員会報告

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