PLAINセンターニュース第150号
Page 2

宇宙科学データの音声化 −PLAIN センターでの研修成果報告−

宇野 伸一郎
日本福祉大学, PLAIN センター客員助教授
堀畑 昌希、亀山 哲也
日本福祉大学


 今回で 4回目となる 日本福祉大学学生のPLAINセンター研修を、今年は 2月28 日から3月15日の2週間にわたって実施しました。学生2人には、新企画「視覚障害者用科学データ可聴化プロジェクト」のキックスタート部分を担当させました。この企画は、教材製作だけではなく、障害者と共に科学研究を行うための枠組作りの第一歩としたいと思っているものです。福祉大学に籍を置く数少ない宇宙科学研究者の一人としてユニークなプロジェクトに育てていきたいと思っています。今後の開発にご期待ください。

(宇野 伸一郎)


 本プロジェクトの始めとして、我々はまずパルサーのデータ解析/音声化を行いました。パルサーとは周期的に明滅を繰り返す天体のことをさします。パルサーは高速に自転している中性子星の磁極が光っているもので、その周期は数ミリ秒というような短いものから数十秒という長いものまで様々あります。

 パルサーの解析ではパルサーからきた光が時間の経過とともにどのように変化したか調べます。解析には標準的な解析ツールである XRONOS を使用しました。

これを使ってライトカーブ、パワースペクトル、フォールディング解析などを行っていきます。

 ライトカーブとは、観測時間内にどれだけの光が観測されたか時刻順に表示するものです。パルスの明確なパルサーならば一定時間ごとに光度が変化する様子が見られます。パワースペクトルは天体の周期性を出力してくれるものです。これは周期的な時間変動を解析する場合の基本になります。そしてフォールディング解析とは観測されたライトカーブを一定の周期で何回も折りたたんで重ねて表示するというものです。これにより、詳しいパルス波形のデータが得られます。今回、私たちはDARTSにあるX線天文衛星 ASCA/GINGA のデータを解析しました。ターゲットは Cen X-3、Her X-1、Crab です。図1 にフォールディングした Cen X-3 のパルスプロファイルを示します。強度が周期的に変化していることがわかると思います。今後、より多くの天体を解析し、またシステムのマニュアルを作りなども視野に入れて研究を進めたいと思っています。


図1:

  • ← Cen X-3 のパルスプロファイル。(約10秒)
    作成した中では最もパルスが明瞭に聞き取れる。なお、このファイルは一周期を1秒としてあるため、実際のパルスはもう少し長い時間となる。
  • ← Her X-1 のパルスプロファイル。(約3秒)
    パルスが聞き取れるようになっているが、一周期以上の詳しいプロファイルを聞き分けるのは難しい。
  • ← Crab のパルスプロファイル。(約1秒)
    ミリ秒パルサーであるため、解析及び音声化にもう少し工夫が必要な状態である。

(堀畑 昌希)


 次に我々は解析したX線パルサーのパルスプロファイルの音声化を行いました。これは、パルサーが周期的に放射してきたパルスを単音の音声と掛け合わせることにより、パルスを音声化しようという試みです。

 この試みには、視覚障害者の方に宇宙に触れてもらう機会を増やすというだけでなく、聴覚の鋭い視覚障害の方と共にデータを聞くことで、視覚対象物ではないパルサーに新たな視点(聴点?)を持たせることができるのではないかという思いがあります。宇宙と福祉を絡ませたこの研究は福祉大学に在学する学生として、非常にやりがいのあるものです。

 我々は、Xronos の解析によって作成されたパルス波形のデータ (テキスト形式ファイル) をどのように音声化するのか、を考えました。そして以下のような方法をとりました。まず、図2 のようなパルスプロファイルがあったとして、これに、単音の「ラ」の音 (440Hz) のデータ (図3) を掛け合わせて、最終的に図4のような波形の音声ファイルを生成する、というものです。我々は2週間で 3つの天体を解析し、これらを音声化することに関しては成功を収めました。その結果、Cen X-3 はパルスの強弱をクリアに聞くことができましたが、Crab などは周期が短かすぎてうまく聞き取ることができませんでした。


図2:模擬パルサーのパルスプロファイル


図3:パルスに重ねる音の波形


図4:合成された音の波形

  今回の研修で、一通りの音声化はできましたが、システムに関してまだ改良する点が多くあると感じました。今後は、各々のパルサーのエネルギーに合った波形を作るプログラムの作成や、音声データ生成時に 周波数変調を採り入れるなどの方法を検討してみたいと思っています。これらの改善点に向け全力で研究を続けていきます。

 最後に今回このような機会を与えてくれた PLAIN センターの皆様に感謝します。ありがとうございました。

(亀山 哲也)



Solar-B データの宇宙研・天文台間のデータ共有・転送実験 へ

スーパーコンピュータ平成18年度共同研究採択課題 へ


(1Mb/4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME