No.304
2006.7

ISASニュース 2006.7 No.304 

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パスツールの故郷 ジュラ地方の名物ワイン 

宇宙科学研究本部 名誉教授 水谷 仁 


 『ISASニュース』編集委員会メンバーは私が下戸であることを知っているはずなので,まさか,この欄の執筆を依頼してくるとは思ってもみませんでした。下戸でもお酒の話は書けるだろうということになったのでしょう。

 さて,ISASを卒業してから,はや1年余りたちました。その間の7ヶ月間,パリ地球・惑星物理学研究所の客員教授としてパリに滞在していましたので,そのときの話でこの欄を埋めさせていただくことにしましょう。

 ご存知のように,フランスはワインの国です。研究所の食堂におけるランチでも,ワインを飲む人はたくさんいます。夕食で町のレストランに行けば,最初に出てくるのはワインのメニューです。こういう場合のワインにはピンからキリまでありますが,一般庶民はミネラルウォーターより少し高い程度のワインで我慢します。飲めない私もディナーを注文するときには,仕方がないので1杯,あるいは1本のワインを注文することになります。

 ちょっと立派なレストランでは,最初の一口を飲ませてから,「これで良いか」と聞かれます。そもそも私にはワインの良し悪しは分かりませんから,常に「これで良し」と答えることになります。しかし本当にワインの味が分かる人は,そこで「これは駄目」と言うこともあります。私が見た範囲で最高に勇気ある「駄目」を出した人は,次から次と「駄目」を言い,4回目に持ってきたワインでやっと「良し」と言いました。3本の新しいワインが一口飲まれただけで捨てられてしまうのかと心配になりますが,多分これらは厨房で料理人に歓迎されるのでしょう。

 ワインに白,赤,ロゼの3種類あるのは,皆さんご存知の通りですが,実はフランスには黄色ワインもあるのです。恐竜の時代として有名なジュラ紀のジュラは,フランスとスイスの国境をなすジュラ山地の地層に由来するものですが,このジュラ地方の代表的なワインが黄色ワイン,「ヴァン・ジョーネ(Vin Jaune)」といわれるものです。ジュラ・ワインの集積地として有名なアルボアという小さな町の周辺でつくられています。ワイン通ならこのアルボアという地名を知っているでしょうが,私はルイ・パスツールの伝記を読んで,この町の名前を知りました。今でもパスツールの育った家が,この町に残っています。

 さてヴァン・ジョーネは,この地方独特のサヴィニアン種という葡萄から特殊な醸造法でつくられます。樽貯蔵時に蒸発によって目減りした分を補充せず,最低6年間熟成させてつくるのだそうで,こうなるとワインではなくて,ウイスキーのような感じですね。瓶もウイスキーを入れるような,620mlの小太りのものになっています。

 「味はどう」と聞かれても,私には標準的な答えはできません。普通の白ワイン,赤ワインとはかなり違う,結構きついワインです。インターネットショップを見ると,日本でも620ml瓶が5000円程度で買えるようです。皆さん,一度試してみたらいかがでしょう。味がどうだったか,一言私までご連絡いただければ,それをもってヴァン・ジョーネの味としたいと思います。

白と赤と黄のワイン。真ん中の小瓶がヴァン・ジョーネと呼ばれる黄ワイン。

(みずたに・ひとし) 


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