No.300
2006.3


ISASニュース 2006.3 No.300 

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「あかり」打上げと初期運用


 天体の出す赤外線を観測する日本初の専用衛星ASTRO−Fが、日本時間2月22日午前6時28分、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所からM−」型ロケット8号機で打ち上げられました。1段目点火の瞬間、アンテナ設備の中に設けられた衛星管制室でも、夜明け前の窓の外が一瞬明るくなって轟音が響きました。その後、アナウンスや計算機の表示が、ロケットの順調な飛行を伝えていきます。内之浦の視界からロケットが消えていってから数分後、JAXA統合追跡ネットワークのオーストラリア・パース受信局が衛星からの電波をとらえました。「衛星分離確認!」の声、そして通話装置の向こうからロケットチームの拍手が聞こえてきます。ここからが本番の衛星チームも、とにかく互いに笑顔で握手。ほぼ予定通りの軌道に乗ったASTRO−Fには、「あかり」という新しい名前が付きました。

 実はこのとき、姿勢制御装置の担当者は、ちょっと首をひねっていました。太陽の方向から衛星の姿勢を知るための太陽センサーが、正しい姿勢情報を出せないという、理解しにくい状況に陥っていたのです。しかし、ここからが経験豊かな姿勢担当者たちの本領発揮。地上からの指令で太陽電池パネルを太陽方向に向け、太陽センサーに頼らずに電力を確保します。その後、姿勢の変更をガスジェットから微調整の効くリアクションホイールに切り替えたり、星を観測して姿勢を知るスタートラッカを立ち上げたりと、打上げから数日で、基本的な姿勢制御が確立されていきました。この期間中は、統合追跡ネットワークの海外の受信局も大活躍でした。衛星が日本上空にいないときでも、次々とデータが送られてきて、地上からの指令も送信できる、その威力を実感しました。

 さて、ここまで来ると、次は軌道変更です。M−」ロケットが運んでくれた楕円軌道から、ガスジェットを使って観測のための円軌道に移る必要があります。この操作も、数日をかけて順調に進みました。この原稿を書いている時点で、すでに「あかり」は高度約700kmの最終に近い軌道を飛んでいます。「あかり」が搭載している天体望遠鏡や赤外線観測装置は、液体ヘリウムと冷凍機によってセ氏マイナス270度近くまで冷却される特殊なものですが、この冷却システムと観測装置も順調に動作しているのが確認できました。

 望遠鏡は冷却容器の中に納められていて、観測を開始するためには容器のふたを開ける必要があります。ふた開けは当初3月に行う予定でしたが、姿勢に何か異常が起きたときに対する備えを太陽センサーが使えない状況でも確実なものにするため、4月に延期することにしました。ふたを開けて、姿勢制御系と赤外線観測装置の最終調整を終えれば、いよいよ観測です。順調にいけば、5月には天体の赤外線画像など、初期のデータをお見せできると思います。

 最後になりましたが、「あかり」の打上げにご声援を頂いた全国の皆さん、ありがとうございました。今後も、観測がうまくいって大きな成果が出せるよう頑張りますので、引き続きご支援をよろしくお願い致します。


内之浦の衛星管制室で奮闘中の姿勢制御担当者たち

(村上 浩) 


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