- Home page
- No.294 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
- いも焼酎
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

はやぶさ近況 目的地イトカワへ到着


「はやぶさ」

 本誌が発行されるころには,「はやぶさ」は小惑星イトカワの周辺20kmの地点に滞在するランデブーフェーズに入っていると思いますが,8月28日には軌道設計上の「到着」をしています。2年4ヶ月に及ぶイオンエンジンの往路運転が終了し,イトカワからの距離4800kmにまで近づきました。この時点でのイトカワとの相対速度は約9m/s(時速32km)でした。ここから先は,2液式化学推進のエンジンを使って徐々に速度を落としながら,さらにイトカワに接近するのですが,地球からイトカワまでの惑星間軌道の観点からは,すでに「到着」していることになるのです。

 7月の合(地球から見て探査機が太陽の裏側に位置し,地上との交信が難しくなる状態,『ISASニュース』8月号参照)の期間を終えた「はやぶさ」は,停止させていたイオンエンジンの運転を再開し,イトカワへのラストスパートに入りました。スパートといっても,加速ではなく減速するのですが。この間,7月29日から30日,8月8日から9日,および12日に,搭載している星姿勢計(スタートラッカ)でイトカワを撮影しました。これらの画像からイトカワの見える方向を求め,地上からの電波による計測と複合させて,「はやぶさ」探査機の精密な軌道決定が行われました。図1は,背景のとも座が重なるように3枚の画像を合成したもので,イトカワの見える方向が日々変化していることが分かります。

図1 星姿勢計で撮影したイトカワ。3枚の画像を合成。

図2 光学航法カメラで撮影したイトカワ。5枚の画像を合成。
背景の暗い星を同時に写すために露光時間を長くしており,
イトカワは像が広がって見えている。

 8月23日,24日(世界時では22日,23日)には,狭視野の光学航法カメラでもイトカワを撮影しました(図2)。光学航法カメラは0.006度の精度で星の方向を検出することが可能ですが,視野方向の制約から,8月下旬までイトカワの方向を向けて撮影することができませんでした。この観測により,電波計測のみでは100km程度の軌道決定精度が,10km程度まで改善されました。図3は,光学航法カメラで検出されたイトカワの明るさを,予測値と比較したものです。予測値は,以前イトカワが地球に接近した際に地上から観測されたデータをもとに計算したものです。イトカワは約12時間で1回転していて,その明るさは6時間周期で変化しています。その明るさの変化幅も明るくなる時刻もよく一致しており,この天体はイトカワに間違いないことが分かります。

図3 イトカワの明るさの変化。
予測されたモデルと光学航法カメラでの観測値の比較。

 9月上旬は毎日軌道制御を行い,微調整を続けます。イトカワも,点像から次第にその形が見えるようになってきました。厳しい運用が続きますが,あと少しで本当の「到着」です。

(橋本 樹明) 


Return

#
目次
#
科学衛星秘話
#
Home page

ISASニュース No.294 (無断転載不可)