No.294
2005.9

ISASニュース 2005.9 No.294

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赤道直下の離れ小島クリスマス 

宇宙科学情報解析センター 橋 本 正 之  


旅行目的

 7月10日にM-V-6号機により打ち上げられたX線天文衛星「すざく」は発射後1307秒(21分47秒)に,日本からはるか彼方の赤道直下の小島,クリスマス島上空でロケットから分離された。この衛星分離時の詳細データと,M-Vロケットでは初の試みである二つのサブペイロード実験装置からのデータ受信のために,JAXAクリスマスダウンレンジ局を訪れた。

 メンバーは,JAXAからは北村哲夫氏と私の2名,三菱商事から2名,現地システムの維持管理・運用を担当しているVCI(Vertical Circuits Inc.)から6名で,私以外はクリスマス局について熟知しており,30年間のトラッキングのベテラン経験者など頼もしい面々であった。各自が自分の責任分野に対して明確なプロ意識を持つ素晴らしいチームで,追跡対象のM-V-6号機の特徴を理解していただいた後は,実に的確に受信の準備が進行した。


サバイバル生活への出発

 キリバス共和国クリスマス島は,ハワイの南約2000km,北緯2°に位置する,大きさが東京都の区内面積ほどのサンゴ礁でできた小島である。この島での生活を始めるに当たっての最初の課題は,食料調達である。島の人口は5000人を超えているとのことで,ホテルでの食事も可能なのだが,それになじむには少々努力を要するとのこと。そんな訳で,経由地ホノルルのスーパーマーケットで2時間もかけて,山のような買い物を実施した。料理がまったくダメな私の仕事は,もっぱらどでかいカートを転がし付いて回ることだけで,調達物資の選択は同行のクリスマス島ベテラン諸氏にお任せした。

 ホノルル空港からの出発は,広い空港の端の方にある普通は行くことのない小さな小屋のようなところからで,ビザの確認などの出発手続きもここで行われた。調達した大量のサバイバル物資を各自のバッグに詰め込んだ結果,荷物の重量計測では全員制限重量をはるかに超過してしまったが,どういう訳か何のおとがめもなかった。ホノルルからクリスマスまでは19人乗りのプロペラ機で,おおよそ5時間を要した。この飛行機は今年の8月末ごろからはぐっと大きくなる予定で,所要時間も3時間ぐらいに短縮され,快適コースに変わるとのこと。


南国クリスマス島での生活

 クリスマス島に到着後最初になすべきことは,調達物資を受信局の冷蔵庫に収め,これからのサバイバル生活の基盤を作ることである。

 それでは,実際の生活はどうであろうか? これは予想に反して毎日がごちそうで,同じメニューはまず出ない。クリスマス局の先輩たちが,プロ顔負けの料理人に変身,日本料理が恋しいなどと思うことはまったくなかった。しかし,打上げ延期に備えて食料調達訓練も欠かせない。透き通るようなサンゴ礁の海岸に出て,タコ捕りなどの任務もせっせと果たした。


温かな島の雰囲気

 クリスマス島民は,とってもフレンドリーである。お互いに「Mauri」と言い合い,親しげに首をチョコッと上げてあいさつを交わす。ある日,同行の北村氏から,本日15時にキリバス共和国のクリスマス島区域開発担当大臣Honourable Tawita Temoku氏への表敬訪問の予約が取れたので一緒に行くように,との指示が出た。半ズボン姿であったので,いくら何でもと思い,ホテルに戻り長ズボンにはき替えて(大して変わらず)訪問。今回の仕事の概要などを説明。大臣はとってもにこやかに,島の人々と同様,親しげに温かく歓迎してくださった。


無事任務を達成して

 初めに述べたように,クリスマス局受信チームはベテランぞろいで,それ故に本番前から今回の受信の難しさを全員が認識していた。このため,無事受信ができたときにはクリスマス局ダウンレンジ班一同,胸をなで下ろした。写真からも,無事任務を達成できたという関係者全員のうれしそうな表情が読み取れる。

 島中に散らばるヤシの木,真っ青な空と海,そして受信局からホテルへの帰り道に思わず車を止めて見上げてしまう,ため息の出るような満天の南国の星空が,帰国後の今も脳裏に浮かぶ。

打上げ後,受信室に全員集合。これで我々も有名人!

(はしもと・まさし) 


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