No.288e
2005.3 号外

ISASニュース 2005.3 号外 No.288e 


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- No.288 号外 目次
- ごくろうさまでした
- Mロケットの明日を“読む”
- 皆さんありがとうございました
- 「開発」と「自然の叡智」への想い
- 宇宙研よ,さようなら!
- 思い出に残るスポーツ大会
- 宇宙にかける夢
- 40年は矢のように過ぎて
- お世話になりました
+ 心からお礼を申し上げます

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心からお礼を申し上げます 

渡 辺 勇 三  


駒場時代のひとゝき

 駒場時代,スペース・チェンバー実験で,プローブ特性を調べて理論的に説明する快感を知る機会に恵まれました。超高層大気を模擬するために,チェンバーを超高真空にして純粋ガスを導入し,後方拡散型プラズマガンでプラズマを生成します。容器は,ガラス製球形容器から金属製チェンバーに移行する時期でした。連日,大型チェンバー実験の手伝いと小型チェンバーの面倒に明け暮れました。ガラス球の脱ガスはガスバーナーであぶって行われました。夜を徹して真空引きを行うことも,しばしばでした。当時の宇宙航空研究所は駒場にあったので,ネオンプラズマの見学と称して渋谷のネオン街に行くこともありました。初めて焼き鳥を食いました。トリじゃない!と思いつゝ……。

 勾配磁場中プローブ特性の実験のために,特製コイルに電流を通じて局所的な磁場を作りました。プローブ容量スペクトルから固有の共鳴現象が消えました。特性を説明するために,プローブ周辺の空間を積分して総容量値を求めました。単位面積,単位長の空間のアドミタンスを用いて,Δr,Δz,rΔψの微小空間のアドミタンスを考えて,直列接続の場合はインピーダンスの総和,並列のときはアドミタンスの総和で計算しました。z方向はプローブ長のみで端は省略,r方向は1mくらいまで積分しました。早速プログラムを書いて,計算結果を待ちます。その結果,共鳴現象は消え,心踊りました。このときの着眼点は正しく,そのひらめきはしばらく自慢ものでした。後に教授になられ南極越冬隊長を務められた,若き日の助手の先生のご指導で,学会などで発表することができました。先生はあっという間に演算で式を解かれましたから,驚きでした。

 当時ワープロはなくペン書きで,図も烏口を砥石で研いで墨をすって書きました。接写カメラで撮影し,暗室で現像しスライドを作りました。フォルトランでプログラムを書いてパンチカードに穴を開け,カードリーダーで入力してXYプロッターの結果を2〜3日待ちます。

 その後,ロケット実験に入れていただき,永らくコツコツと観測を続けました。見えないところで地道に行ってきた特性が,後に実を結んでくれました。プローブ周辺に形成されるシース容量値の電子密度依存性を利用して,電子密度で決まるアッパーハイブリッド共鳴周波数の欠測領域の密度の算出を行うことが,当初時々試みられていましたが,常時その特性をチェックして測定機器の動作が正常であることを確認し続けました。この作業は,報告などの表には現れません。シース容量値が帯電特性を示すことはよく知られていましたが,南極ロケットのオーロラ実験の結果を用いて,オーロラ降下電子による帯電の影響がプローブ特性に現れることを検証することができました。プローブ帯電効果がイオンシース容量値で測定されることを,オーロラダイヤグラムとオーロラ電子フラックスの観測結果と対応させて明らかにした結果は,先生方のご支援のおかげで極地研の研究誌に報告させていただき,札幌で開催されたIUGG2003で発表することができました。

 おかげさまで,大隈地方などで多くの美しい自然に触れることができました。科学衛星追跡運用業務のころ,幸運に恵まれてPIセンターの前の海で竜巻を見ました。また,冬の大雪,春の大文字桜,夏の轟の滝,秋祭りの流鏑馬,田代の夜桜……。楽しい思い出がいっぱいできました。追跡センターでは,のんびりと彗星や流星や火星を観測しました。台風の後のアンテナ修理の手伝い,嵐の合間の加世田ドライブ,風雨の桜島溶岩道路の散策,火山灰の襲来と蜜柑狩り……。懐かしく思い出されます。薩摩路のキビナゴ,内之浦のサザエ,臼田のタラの芽,能代のイカ,三陸のホタテ,錦江湾フェリーのうどん,城下町の薩摩揚げ,道草の煮落花生,黒潮の苦瓜,憩の白熊……。ごちそうさまでした。

 よく笑い,よく泣いた日々でした。今,振り返ってみると,愛妻(?)と南十字星を見上げたときが一番幸せだったように思います。皆さま,永い間お世話になりました。これからの宇宙研が健全に発展されますよう,心より祈念しています。

(わたなべ・ゆうぞう 技術開発部基礎開発グループ) 



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