No.286
2005.1

ISASニュース 2005.1 No.286

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初めての異国 

技術開発部機器開発グループ 川 原 康 介  


 初めてのことを目前に控えると,おのずと非日常的な心境になる。その心境の在り方から,大きく2つのタイプに人を分けることができると思う。期待で心躍らせるタイプと,不安に駆られてストレスを感じるタイプである。私は典型的な後者の人間である。そんなネガティブな人間が,日本とはまったく異なる文化・環境・言語を持つ土地へと向かったのだから,当然カルチャーショックを受けることになる。海外慣れされている方には退屈な内容かもしれないが,私が受けた印象を紹介することで「東奔西走」としたい。


初めての海外

 旅好きの方には信じられないだろうが,私にとって旅こそがストレスである。旅程の計画からお土産の選別に至るまで,すべてが苦痛の種なのである。すなわち,旅の醍醐味こそがストレス源なのだ。当然,海外旅行などしたことない。そのような正真正銘の出無精が海外を体験するきっかけとして,今回の出張は最適であったと振り返る。


往路にて

 ロケット実験場があるノルウェーのアンドーヤへは,飛行機を合計4回乗り継いで行かなければならない,遠くて小さな町である。当然,乗り継ぐに従い飛行機は小さくなっていき,チケットの確保も難しくなってくる。そのような状況の中,最初のアクシデントが起きた。3回の乗り継ぎまで旅は順調に進んでいたのだが,最後のボードー―アンデネス間の搭乗予定の便が急きょキャンセルになったのだ。すぐさま次便の手配を試みたが,結局3グループに分かれておのおのアンドーヤロケット実験場を目指すことを余儀なくされた。


ノルウェーでの印象

 まず驚いたのがノルウェーの言語事情である。とにかく英語が堪能なのである。タクシーの運転手から飛行機で私の隣に座っていたマダムに至るまで,ほとんどすべてのノルウェー人が英語を自由自在に操るのである。相模原で多額の金額を払って英会話スクールに通っている私にとって,この事実は非常に衝撃的であった。早速尋ねてみると,学校教育で10歳から英語学習が義務付けられているとのこと。ただそれだけだそうだ。日本の義務教育で13歳から英語を学んできているはずの自分との差はいったい何なのだろうか。

 次にインパクトを受けたのは,話し方である。彼らは必ず相手の目を見て話すのだ。なんと礼儀正しいのであろう。そんな習慣を持つ彼らなので,うかつに話し掛けると危険な思いをする。現地のタクシードライバーは,雪道で路面が滑りやすくなっているにもかかわらず平然と時速100km以上のスピードでフリーウェイを駆け抜ける。そのような状況下で,助手席や後部座席に座っている我々に目を見て話し掛けてくるのだから驚きである。「前を見て運転して!」と思いつつ,彼らと受け答えをしていたのを覚えている。

 ロケット実験場での食事は,基本的に現地の人に準備してもらうことになっていたので,ノルウェー料理を食すことができた。幸い私の味覚とマッチしていたため,食事は実験期間中の楽しみの一つであった。日本人にとって珍しい料理として,トナカイ料理があった。シチューやバーベキューなど,さまざまな調理が可能な万能肉である。ただ,臭みが強いため好き嫌いがはっきりとしていた。捕獲方法を尋ねてみたところ,スノーモービルに乗って縄で捕らえるとのこと。動物愛護の立場から,なるだけ生き物を傷つけないように捕獲するというのがその理由らしいのだが……。

 飲み水に関しては,蛇口の水をそのまま飲用できたので何ら不自由することはなかった。しかしながら,現地の人が飲めると言ってくれるまでは,飲むのをためらうような水が出てくる。水に色が付いているのだ。その色は薄い黄色なので,トイレにたまっている水を初めて目にしたときは,思わず流し忘れではないかと感じるくらいである。恐る恐る現地の人に水道水のことを尋ねてみると,山の麓のため池から水を引いてきているが,3段階のフィルターを通している上に紫外線で殺菌をしているので飲用しても問題ないと教えてくれた。


帰路にて

 ロケットは,天候の理由により予定より1週間延びた12月13日午前1時33分(現地時間)に無事打ち上げられた。運悪く移動日が週末と重なってしまい,航空機の予約がなかなか取れなかった。そんな苦労や往路でのアクシデントをねぎらうかのように,帰路ではうれしいアクシデントが待っていた。

 なんとデンマークのコペンハーゲン―成田間がビジネスクラスに変更されていたのである。一足早い,クリスマスプレゼントであった。

(かわはら・こうすけ) 

S-310-35ロケット前にて。向かって左端が筆者。


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