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X線天文衛星ASTRO-EIIの現状

ASTRO-EII衛星照射試験(2004年9月30日,ISAS衛星クリーンルーム)。
この試験ではend-to-end試験の一環として,疑似太陽光(写真右下)を太陽電池パドル(写真中央右側)に照射し電力を確保した上で,地上系との有線の接続をすべて切り離し,軌道上動作に近い状態を模擬しました。また,硬X線検出器の感度を上げるため,衛星全体をビニールバッグに入れて(写真左側)温度を周辺よりも数度下げています。また,X線分光器の液体ヘリウムを超流動化するための排気も行いました(写真左下に排気用配管)。


 本年4月に始まったASTRO-EII衛星の総合試験は,胸突き八丁,マラソンでいえば35km地点を過ぎた所まで来ています。各搭載機器のインターフェース確認,衛星ベーキング,頭胴部仮組試験を経て,7月に初めてほぼ衛星全システムがインテグレーションされた状態となり,3日間の連続ランニング試験などを行いました。8月には熱真空試験を行い,9月には冷媒(固体ネオンと液体ヘリウム)を搭載したX線分光検出器の飛翔モデルが衛星に搭載され,6日間の連続ランニング試験を行いました。ランニング試験の結果は大変良好で,特にX線分光器については,ASTRO-Eのときに問題となったモーメンタムホイールとの干渉も皆無で,6keVのX線に対して半値幅で6eVを切る高いエネルギー分解能が得られました。

 一方,熱真空試験の際,電池充電動作時に硬X線検出器の雑音が増大することが分かりました。このため計装配線などに干渉軽減のための対策を施した上で,最終的に太陽電池パドルに疑似太陽光を照射して衛星電力を賄う照射試験を行い,干渉が十分に軽減したことを確認しました。これまでの試験で,ASTRO-EIIの最大の特徴である高分解能X線分光と広帯域X線分光について,必要な性能が衛星レベルで得られていることを確認することができました。

 一方,JAXAの衛星総点検の一つとしてASTRO-EII衛星の総点検が5月から行われてきました。点検の結果,打上げに支障のあるような重大な問題点は指摘されませんでしたが,より信頼性を増すための要対策・要検討事項が31項目指摘され,その対策と検討を進めてきました。現在,全対策と検討事項について対応のめどがついた状態です。点検に当たっては,プロジェクトチーム,特に宇宙研工学関係者と関係メーカーの方々には大きな負担をおかけしたと思いますが,要対策・検討事項はいずれも衛星の信頼性をより向上するために非常に有効なものであり,大きな労力を払っただけの価値は十分にあったものと思います。なお,総点検の方法と結果は,宇宙開発委員会調査部会のもとに作られた衛星総点検専門委員会に報告され,承認されました。

 衛星の試験と並行して,打上げ後の観測に向けた準備も着々と進んでいます。ASTRO-EII衛星では,世界中の研究者からの観測提案を受け付けています。8月には,第1回国際公募観測の提案が締め切られましたが,今回の公募では,インド・韓国などアジアの国からの提案もありました。提案された全観測時間は,可能な観測時間の3倍以上となっており,現在,日米で審査が行われています。

 総合試験は,いよいよ最後の難関である機械環境試験に向けて準備に入りました。機械環境試験後は,3日間の連続ランニング試験による最終動作確認などを行い,12月半ばに総合試験を終了する予定です。これで,衛星は2005年の打上げオペレーションに向けて準備完了の状態になります。

 これまで総合試験の途中でいくつか問題が発生しましたが,今のところ総合試験は,当初の予定通りに進んでいます。これは,問題が起こるたびにハードなスケジュールをこなして,一丸となって問題解決に力を尽くしてきたプロジェクトチームの努力の結果であると思います。特に,非常にタイトなスケジュールの中で,夜遅くまで,また休日をつぶしてご協力いただいた関係メーカーの方々に,まだ途中ではありますが,この場を借りて深く感謝したいと思います。

(満田 和久) 


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赤外線天文衛星ASTRO-Fの現状



改修を終えたASTRO-F望遠鏡 冷却容器に組み込まれる望遠鏡


 ASTRO-Fは,日本で初めての赤外線天体観測専用の人工衛星です。昨年のISASニュース7月号で,反射望遠鏡の支えの部分に不具合が発見され,打上げが延期されたことをお伝えしました。今回,この望遠鏡不具合の改修が終わり,衛星の組立てが再開されたことをお伝えできることになりました。

 ASTRO-Fの望遠鏡は口径が約70cmの反射望遠鏡です。反射鏡は炭化ケイ素という望遠鏡としては新しい素材で作られており,望遠鏡自身が赤外線を放射して観測の邪魔をするのを防ぐため,極低温の液体ヘリウムを搭載して摂氏マイナス266度まで冷却されます。昨年見つかった不具合は,極低温での振動試験で炭化ケイ素の鏡に接着されていた支持金具がはがれてしまう,というものでした。その後,専門家による対策チームの検討に基づいて支持金具の材料が変更され,また形状も改良されました。新しく組み立て直された望遠鏡は,今年6月から7月にかけて行われた極低温振動試験に合格し,打上げ時の過酷な環境に耐えることが示されました。現在は,望遠鏡に赤外線センサーも取り付けられ,液体ヘリウムタンクを備えた冷却容器への組込み作業が行われています。

 望遠鏡の不具合のために一時中断していた衛星全体の組立てと試験は,今年12月に再開される予定です。打上げの日時はまだ決定されていませんが,来年の夏にはいつでも打上げが可能なように準備を終えることを目標に,作業が進められています。

 これと並行して,韓国やヨーロッパの研究機関と共同で,迅速なデータ処理のためのソフトウェア開発,あるいはヨーロッパの受信局でASTRO-Fのデータを受信してもらうための準備も進めています。また,国内外の100名ほどの天文研究者の協力を得て,観測計画の議論も進んでいます。全天をスキャンして赤外線を放射している天体を探すだけでなく,特定の天域を何度も観測してさらに暗い天体まで検出したり,大マゼラン雲の全域を赤外線で調べ尽くす計画などが議論されています。ほかにも,私たちの太陽系の中にある天体から,百億光年を超える遠方の銀河まで,さまざまな観測計画が提案され,検討が詰めの段階に入っています。

 軌道に打ち上げられた後もASTRO-Fが正常に動作し,きれいな天体画像などを皆さんに見ていただけるよう,打上げまでもうひと頑張りしたいと思います。

望遠鏡焦点面に取り付けられた赤外線観測装置

(村上 浩) 


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ISASニュース No.283 (無断転載不可)