- Home page
- No.269 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- いも焼酎
- 東奔西走
- 内惑星探訪
- 科学衛星秘話
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber
ASTRO-E II計画

 ASTRO-E II計画は,2000年2月10日に軌道投入に失敗したASTRO-E計画の再挑戦計画である。2005年1〜2月の打ち上げを目指し,衛星の製作が進められている。

 ASTRO-E II衛星には,X線天文衛星「あすか」の性能をさらに向上させたX線反射望遠鏡(XRT)が5台搭載され,それらのうち4台の焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が,1台の焦点面には高精度X線分光装置(XRS)が置かれる。これらの観測装置は,およそ0.5〜10keVのエネルギー領域のX線を観測する。また,これらと同時に各X線源からの硬X線(およそ10〜700keVのエネルギー領域)をこれまでにない感度で観測する硬X線検出器(HXD)が搭載される。これらの観測装置によりASTRO-E II衛星は広い波長帯にわたって優れた分光性能を持つ大型高性能X線天文台となる。中でもXRSは,画期的に優れたX線分光能力を持ち,宇宙の各種天体に存在する高温プラズマ中の,鉄などの重元素が放射する輝線の微細構造が,初めて観測されることとなる。その結果,ブラックホールのまわりの物質の運動や,銀河団の形成・進化といった問題に,新しい光を当てることができるようになるだろう。これと平行して,XISHXDを用い,広い波長域にわたった精度の高い連続スペクトルを得ることができ,宇宙での粒子加速の現場をとらえたり,遠方の銀河の中心に隠れたブラックホールを見いだしたりすることも期待される。

 これらの観測装置の開発は,日米の多くの大学・研究機関の研究者によって行われている。また,その科学的成果を最大限に引き出すための日米欧の研究者による科学作業グループの活動も進められている。無事軌道に投入された暁には,世界の研究者に開かれた国際軌道X線天文台として一般公募観測を順次行っていく予定である。

(井上 一) 


Return
Next

- Home page
- No.269 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- いも焼酎
- 東奔西走
- 内惑星探訪
- 科学衛星秘話
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber
「のぞみ」スウィングバイとその基本原理

 火星探査機「のぞみ」は,2003年6月19日11,000kmの距離まで地球に接近し,地球スウィングバイを行った。「のぞみ」の新軌道(図1)の「第回スウィングバイ」までが達成されたこととなる。この結果,2003年12月半ばに火星に到着する軌道に「のぞみ」をのせることに成功した。


図1 「のぞみ」の新軌道計画


 ボイジャーやガリレオなど,太陽系を探査する人工衛星で頻繁に使われるこのスウィングバイという技術,「一体何」と思われる読者向けに解説することが本稿の目的である。私自身が軌道設計については素人であるが,それを逆手にとって,なるべく分かり易い解説を試みたい。

 普通,探査機の進行方向や速さを変えるためには,探査機に搭載している多くの推進剤を必要とする。スウィングバイとは,地球などの天体の引力を利用することにより,推進剤を消費することなく,軌道を大きく変更する技術である。天体から受ける引力は,その天体の質量に比例し,距離の二乗に反比例する。太陽系内の惑星間空間を航行する飛翔体は,太陽系の中で一番,しかも桁外れに大きい天体である太陽の引力影響下にある。しかし惑星や衛星のごく近傍へ近寄ると,その天体の引力が支配的となる。飛翔体が天体の近くを真っ直ぐに通り過ぎようとしても,天体の方に引き寄せられる力が働くために軌道が曲がるのである。このとき,引力が働く領域の中で飛翔体が描く軌道は,天体を中心とする双曲線となる(図2a)。また,天体に対する相対的な速さは,引力圏に進入する時と脱出する時で等しいが,天体が太陽の周りを公転しているために,絶対的な座標系で見た飛翔体の速さは変化する。天体の公転方向に対して飛翔体が後方を通過した場合には加速(図2b),前方を通過した場合には減速(図2c)が起こる。スウィングバイを行う際には,事前に精密な軌道制御を必要とする。


図2 スウィングバイの基本原理


 今回の「のぞみ」のスウィングバイに際しても,その前にレンジングやVLBIを優先した運用を行って衛星の位置を精密に決め,軌道の修正を行っている。スウィングバイ後,約1週間かけて実施した軌道決定作業の結果,予定通りの軌道に正確にのったことが確認された。

(松岡 彩子) 

Return
Next

- Home page
- No.269 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- いも焼酎
- 東奔西走
- 内惑星探訪
- 科学衛星秘話
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber
カナダ宇宙庁Kendall氏らの来訪

 7月15日に,カナダ宇宙庁の宇宙科学プログラム部長David J.W. Kendall氏が,同部のW. William Liu氏,カルガリー大学Andrew W. Yau教授,カナダ大使館参事官のT.Philip Hicks氏らとともに宇宙研を来訪されました。「あけぼの」の協力協定がカナダとの間に結ばれたのは1983年で,大成功だったこの協力の20周年を記念しての来訪です。カナダと宇宙研の協力の歴史は古く,1978年には,極光(EXOS-A)の追尾をカナダのチャーチル局で行っています。また,プリンスアルバートにある衛星追跡局では「あけぼの」のデータ受信を実施してきました。最近では火星探査機「のぞみ」にもカナダの観測器を搭載しています。

 鶴田所長自身が(若かりしころ!)深く関与したカナダとの協力の話に花が咲くとともに,10月に迫った宇宙機関統合のことが話題になりました。その後,宇宙研の担当者と,あけぼの,のぞみ,はるか,PLANET-Ce-POPなどのミッションの協力の現状と将来展望につき詳細な情報交換を行い,環境試験棟では,ASTRO-E IILUNAR-Aの試験状況を視察しました。

 Kendall氏から,宇宙研との長年の協力関係に感謝して,鶴田所長に記念品の贈呈がありました(写真)。イヌイットの手作り品で,彼らの言葉で“inukshuk(「人の形をしたもの」の意)”をかたどった置物です。実物は,古くはカリブーの狩に人を模したおとりとして用いられ,現在は道しるべとして役にたっているとのことです。

(中谷 一郎) 


カナダ宇宙庁David J. W. Kendall氏(右)と鶴田所長。

Return


#
目次
#
いも焼酎
#
Home page

ISASニュース No.269 (無断転載不可)