No.269
2003.8

ISASニュース 2003.8 No.269

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ESA小型ロケット・気球シンポジウム 

惑星研究系 小 山 孝 一 郎  

 6月2〜5日にスイス,サンガレン(ザンクト・ガレン)で開かれたESA小型ロケットおよび気球シンポジウムに出席してきました。この会議は文字通り,小型ロケット,気球を用いて研究する理学の研究者,メーカーの技術者が情報を交換する機会を提供することにあるようで,2年1回,ヨーロッパで場所を変えて開かれています。参加者数は200名弱の小規模のシンポジウムです。したがって,多くの人と話せる家庭的なシンポジウムであるとの印象を持ちました。

 サンガレンはチューリヒから東へ約55kmに位置します。この町には,内装の美しさ,まれでユニークな書籍のコレクションによって,1983年,ユネスコの世界遺産に選ばれたザンクト・ガレン修道院があります。もっともこのことを知ったのは到着してから3日目で,見学の機会を失ってしまったのは悔しい限りです。加えて,リヒテンシュタイン公国がサンガレンの南約50kmにあることを,帰国してから知りました。今後もう少し旅の支度を用意周到にすべきと自戒しています。

 6月1日の早朝に自宅を出て,コペンハーゲンでチューリヒ行きの飛行機に乗り換えたったところで,ノルウェーのBrix博士に声をかけられました。“Small world(小さな世界)”を実感します。博士の後についてその日の夕方,サンガレン駅につきました。日本を出る直前に予約したホテルは幸いすぐ駅前にありました。部屋も極めて快適でした。翌朝,シンポジウム会場への途中,道を尋ねた外国人は日本の気球グループとなじみが深い米国Raven気球製造会社のSmith氏でした。“小さな世界”を感じた2回目です。ここでも彼の後について会場のホテルに入りました。

 シンポジウムは天文物理,惑星,大気科学,計測器と技術,衛星データの検証,そして教育のセッションからなります。初日のNational programの紹介,および2日目午前の計測器と技術のセッションを除いて,つの部屋でのパラレルセッションです。

 稲谷芳文教授が初日のNational programのセッションで日本の観測ロケットプログラムを紹介しました。再使用型ロケットは特に大きな関心を呼び,講演が終わると大きな拍手が起こりました。世界の多くの研究者がこのようなロケットの実現を夢見ています。何とか実現して欲しいものです。私は3日目の大気科学のセッションで,日本の最近の観測ロケットの成果を紹介しました。

 教育セッションでのつの講演で感じたことについて述べてみたいと思います。つはEducation CenterDirectorの講演です。ESAは将来の人材の養成,遠い将来を見据えた予算獲得を目指す広報活動という観点から,教育への取り組みを強化しようとしているようです(ここでいう教育とは大学生以下)。スウェーデンのエスレンジ発射場とノルウェーのアンドーヤロケット発射場を宇宙科学教育の実践の場として整備しつつあります。各発射場が,宇宙科学,工学の授業やロケット発射を含む教育プログラムを遂行しています。

 もうつはオスロ大学Egeland教授の“Why is space education so important ?”と題した講演です。教授は日本にも知己の多い老学者ですが,宇宙科学を教育に使うことの重要さを述べたあと,自らの講義の一部を紹介しました。日本でも新機構発足に当たり,教育目的の内之浦からのロケット発射,三陸からの気球実験や,退官されてもまだ教育への情熱を持っておられる方々の授業など,これらを継続的に組織的に遂行出来るような教育センターを立ち上げるべきではないかとの思いをさらに強くした次第です。

 今回の旅はこれまで出席した国際会議の中で最もリラックスした楽しい旅であり,したがって「東奔西走」に最もふさわしくない記事であることを告白してこの稿を閉じることにします。これにはつの理由があります。つには依頼された講演と,2日目夕方のアンドーヤ発射場諸氏との2年後に予定されているロケット実験に関する打ち合わせ以外に,business meetingなし,セッションの座長の役なしの,純粋に皆さんの講演を楽しみ,かつNASAワロップロケット発射場のSchmidlin博士,ドイツのLubkin博士,オーストリアのFriedlich博士など,多くの研究者と旧交を温めることができたことです。つ目は,ドイツ語の堪能な稲谷教授が私のtour guideをかって出てくださったことです。Bodensee湖畔の散歩,「山も湖も同時に見たい」という私の無理難題をホテルのfront嬢と共同で解決してAppenzellでの2時間の山歩き(実際,1時間かけて登った山の頂上に湖があった)の楽しさです。かといって工学の諸氏は稲谷先生が遊んでいたと誤解して,これを口実に稲谷先生を酷使されぬよう……。

(おやま・こういちろう) 


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