No.252
2002.3

<研究紹介>   ISASニュース 2002.3 No.252

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太陽系外惑星検出ミッション

国立天文台 田 村 元 秀  



1.はじめに

 系外惑星,すなわち,我々の太陽以外の恒星を周回する惑星の存在は,1995年の発見を契機としたその後の観測により揺るぎ無い事実となった。現在までに約 80個にもおよぶ木星型巨大惑星が発見されている。この成功に勢いを得て,現在,スペース・地上において数多くの系外惑星検出計画が進行し,提案されている。ただし,その観測手法の多くが間接法と呼ばれるもので,直接に惑星そのものの画像を得たり,スペクトルを調べたりするものではない。言うまでも無く,次のマイルストーンは惑星そのものを直接的に観測することであろう。木星のような巨大惑星の直接検出については,本格的に稼動し始めた8〜10m地上望遠鏡にとって最も重要な観測的課題とされている。しかし,地球のような,木星よりさらに軽く小さな惑星(ちなみに,木星は太陽の約1000分の1,地球は木星の約300分の1の重さである)を検出するのは,直接法は言うまでも無く間接法によってさえも難しい。系外惑星探査計画について,この最も困難だが重要なステップである「地球型系外惑星の直接検出」に真正面から挑戦する計画がNASATPF(Terrestrial Planet Finder)である。 TPFは,我々の近くにある約150個の太陽に似た恒星(F, G, K型星)のまわりにおいて,生命を育むことが可能な領域に位置する地球に似た惑星からの光を直接に検出する。さらに,惑星の軌道や物理的性質(特に,惑星大気)を調べ,生命の兆候となる証拠を集めることを主目的とする計画である。現在,この目的を達成するための最適なアーキテクチャーのレビューがほぼ終了した段階にある。最も有力なアイデアは,中間赤外線におけるスペース干渉計と可視光・近赤外線におけるスペースコロナグラフと考えられている。

 この記事では,系外惑星検出の方法を簡単に説明し,今後の赤外線ミッション(ASTRO-FSPICA)との関連とTPF自体の解説を行うとともに,TPFへの日本の参加・寄与や独自ミッションの検討の場とすることを目的として準備されたJapanese-TPF (JTPF) Working Groupについて紹介する。


2.代表的な惑星検出法

 惑星の公転運動によって恒星自体も影響を受け,その位置や速度はふらつく。アストロメトリ法とは,このような惑星の周回運動による恒星の位置のふらつきを精密測定することによって惑星の存在を示す方法である。しかし,何十年にもわたる測定から示唆された系外惑星は[1],そのほとんどが別の観測者による追試で否定されてきた。その理由は,系外惑星検出に必要な位置測定精度が大気の揺らぎに比べるとはるかに小さいためである。言い換えれば,現在の技術で観測可能な位置のふらつきを決定するためには非常に長い年月を必要とし,追観測が難しい。観測精度の問題は大気揺らぎの無いスペースにおける観測で大幅に改善されると期待される。スペースアストロメトリにより地球型系外惑星の検出を目指すものとしては,2010年頃の打上げを目指すNASASIM計画がある。

 他方,惑星の公転運動による恒星の速度のふらつきを測定するのがドップラー法(動径速度法)である。これは,1995年にスイスのメイヤーとケローズがペガサス座51番星においてスペクトル線のドップラーシフトの周期的変化を発見[2]して以来,最も成功している手法である。当初はこのドップラーシフトが惑星に拠るとする解釈に異論もあった。しかし,ドップラー法で検出された惑星HD209458について,惑星が恒星の前面を通り過ぎることによる2%レベルの明るさの微小変化を検出すること(トランシット法)に成功し[3],ついに独立なつの間接法によって惑星の存在が確認され,系外惑星という解釈は疑問を挟む余地の無いものになった。トランシット法に関しては,スペースから大気の揺らぎに邪魔されず星の明るさの変化をより精密に測定するために,2004年に打上げ予定のCOROT(仏)や,2007〜8年を目指すNASAKeplerESAEddingtonなどの計画がある。

 このように,間接的手法による系外惑星検出は過去数年にわたって成功を収めてきた。そこで,次なるステップとして,木星型・地球型それぞれの系外惑星の直接撮像に向かって熾烈な競争がスタートした。

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3.(地球型)系外惑星の直接検出の困難さ

 木星型巨大惑星はともかく地球型惑星の直接撮像に至るためには,まだまだ多くの困難が横たわっている。それは,非常に高い感度,画像のシャープさ(解像度),明るい恒星のすぐ近くの暗い天体を見る能力(ダイナミックレンジ)の3者を同時に実現する必要があるからである。例えば,我々から約33光年離れたところから太陽系を見た場合,地球の明るさは可視光波長のVバンド(波長0.6μm)で約29等,中間赤外波長の Nバンド(波長10μm)で約20等になる。地球・太陽間の角距離は0.1秒角(36,000分の1度)しかない。これらは,それぞれの数値だけを見ると,現在の観測技術でもそれほど達成困難なものではない。最大の問題は,太陽・地球の明るさの比である。図1は地球のスペクトルエネルギー分布である。波長0.4〜5μmあたりの可視光・近赤外波長では太陽からの光の反射が主となるが,波長7〜20μmあたりの中間赤外より長い波長では惑星自体の熱放射の寄与のため両者の明るさの比は多少緩和される。それでも,Vバンドで約10桁 Nバンドで約7桁に達する。この明るさの比を上記の角距離で達成できる観測装置は現在のところ存在しない。


図1 地球と太陽のスペクトルエネルギー分布。


 中間赤外線におけるダイナミックレンジ条件の緩和は,確かに赤外線における系外惑星検出にとって魅力である。しかし,波長が長いため,同じ口径の望遠鏡を用いる限り低解像度の観測に甘んじなければならない。従って,単一大口径望遠鏡よりも比較的小さな望遠鏡を離して並べる干渉計が有利である。また,中間赤外線波長において超高感度を得るためには,地球大気・望遠鏡・観測装置の熱雑音から逃れるためにスペースに出ることが不可欠となる。そこで,系外惑星探査ミッションとしては赤外線スペース干渉計が有利であるというアイデアが出てきた。NASA/TPFの最初のアイデアもこれに基づいたものである。しかし,これにはいくつかの問題があることがわかった。一つは,恒星の周りには赤外線観測において雑音となる物質(特に,黄道光)が意外に多くあり,惑星からの赤外光がこの中に埋もれてしまう可能性がある。黄道光の原因となるダストは惑星系形成の副産物であり,太陽系内外の両方においてその影響を避けることが難しい。星周ダストの量は恒星系によって異なり,今後の赤外線ミッションのデータに基づき,黄道光・系外黄道光が系外惑星検出に及ぼす影響を定量化してゆくことが急務である。2004年はじめに打上げ予定の宇宙科学研究所の赤外線ミッションASTRO-Fは,さまざまな星の赤外線超過の観測から,このような星周ダストの「進化」を統計的に明らかにするものと期待される。もう一つの困難は,やはり赤外線スペース干渉計に伴う技術的な壁の大きさであり,最近,提案されつつある可視光コロナグラフ(4章参照)のアイデアと比較すると,その優位性は明確でない。つまり,地球型系外惑星検出のために,その反射光を狙うべきか,熱放射を狙うべきかの議論は振り出しに戻っている。

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4.TPFの現状とJTPFワーキンググループ

 TPF1999年当時のアイデアは,口径3.5mの冷却望遠鏡を4台用意し,基線長75mから1kmを確保する赤外線干渉計であった。波長域は3〜30μmをカバーする。これにより,太陽近傍の恒星系を周回する地球型惑星を検出するための感度と解像度が達成される。さらに,通常の干渉計と異なり,干渉計の対称軸位置にある恒星からの光に対しては山と谷との重ね合わせてその光を打ち消し,そのすぐ近くにある惑星の光は打ち消さない「ナル干渉計」とする。これにより,必要なダイナミックレンジも確保される。この野心的な素案は現在では古典的TPFとも呼ばれる。しかし,赤外線干渉計に伴う技術的困難さやそれ以外の方法による地球型惑星検出の可能性が指摘され,より広範囲にさまざまなアーキテクチャーを見直すことになった。そして約2年にわたってつの企業・アカデミアが独立に20を超えるTPFコンセプトを検討し,2000年12月に予備レビューを,2001年12月に最終レビューを行った。ボールエアロスペースのグループは可視光のコロナグラフ,ボーイングのグループは赤外線干渉計からなる超望遠鏡とコロナグラフの一種とも言える矩形状望遠鏡のつ, TRWのグループは大口径赤外線コロナグラフ,ロッキード・マーチンのグループは古典的TPFを延長した赤外線干渉計に絞って検討を進めて来た。現在,これらのアーキテクチャーの審査が行われている。


図2 すばる望遠鏡で得られたTタウリ型星GG Tauの 原始惑星系円盤
  の赤外線コロナグラフ画像。 このような若い星の星周円盤の中で
  生まれた若い巨大惑星を直接発見できる日も近い。       


 太陽系外惑星系の直接観測への関心は日本でも高い。ひとつには,すばる望遠鏡の完成で原始巨大惑星などの直接観測の気運が高まっていること(図2参照)や,いくつかの間接的系外惑星観測が日本においても開始されたことがある。さらに,日本の次期赤外線衛星として検討されている口径3.5m望遠鏡のSPICA[4]では,恒星から離れた惑星の中間赤外線分光観測が可能[5]になる。このような背景をもとに,日本における系外惑星探査ミッションを検討するワーキンググループ(JTPF-WG)が立ち上がった[6]。いっぽう,TPFのような地球型系外惑星探査プロジェクトの規模の大きさや目的を考えると,スペースにおける系外惑星探査プロジェクトに関して国際協力は必須と考えられる。実際に,欧州において独立に進められてきた赤外線干渉計による系外惑星探査計画DarwinTPFと協力して進める可能性が検討されている。JTPFワーキンググループでは,TPF/Darwinとの協力を視野に入れつつ,当面は,中口径の可視光・近赤外線高コントラストスペース望遠鏡の検討と赤外線干渉計の検討とが並行して進められる予定である。前者の新しいタイプの可視光コロナグラフを利用した3-4mクラス口径の望遠鏡の場合,64光年の距離から見た太陽系のような惑星系の場合,巨大惑星(木星,土星,天王星)が,また10光年の距離からは地球型惑星(金星,地球,火星)が比較的容易に撮像できる。そして,その大気を分光することで,可視光においても適切な生命の指標となる分子(とくに水と酸素)の存在の有無が議論できる。このような望遠鏡は通常の紫外線・可視光・近赤外線スペース天文台としても用いることが可能なので,一般天文学への寄与も期待されるだろう。

(たむら・もとひで) 

参考文献
[1] van de Kamp, P. 1969, AJ, 74, 238
[2] Mayor, M. & Queloz, D. 1995, Nature, 378, 355
[3] Charbonneau, D. et al. 2000, ApJ, 529, L45
[4] Nakagawa, T. et al. 2000, ISAS Report SP-14, 189
[5] Tamura, M. 2000, ISAS Report SP-14, 1
[6] http://www.cc.nao.ac.jp/jtpf/


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