No.252
2002.3

ISASニュース 2002.3 No.252

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第29回

衛星搭載用低エネルギー荷電粒子計測器の開発

齋 藤 義 文  

 地球をはじめとする惑星の周辺や惑星間空間はプラズマで満たされています。プラズマとは,物質が電子とイオンの状態に電離された状態をいいます。太陽から絶えまなく流れ出すプラズマ流である太陽風や惑星自体の大気,惑星表面物質等がその起源で,各々の惑星毎の条件に応じてそれらのプラズマの組成,密度,速度,温度などは複雑に変化します。これらのプラズマ(具体的には電子とイオン)をそのプラズマが存在するその場所で測定することで,プラズマの起源や変化の原因を明らかにして,惑星や惑星間空間の構造,変化を知ることができます。


図1 スピン型衛星用プラズマ観測器

 プラズマを計測する方法には色々なものがありますが現在我々の研究室では「プラズマを構成する電子やイオンのエネルギー,質量,電荷を弁別して,観測器に飛び込んで来るこれらの低エネルギー荷電粒子を一個一個数える」という原理の観測器の開発を行っています。これらのプラズマの観測は地球の電離層での観測に始まり,現在では太陽系の他の天体周辺での観測を行うに至っています。太陽風の電子・イオンと惑星周辺電子・イオンではプラズマの密度,速度,温度などの状態が大きく異なります。そのため,観測器の感度や質量,電荷の分解能等をそれぞれの目的に合わせて変化させる必要があります。人工衛星にはスピン衛星,三軸制御衛星がありますが,どちらの衛星に搭載するかで観測器の構造は変化します。我々の観測器は,プラズマの3次元の分布を測定する必要が有るのですが,この為には3次元のあらゆる方向から観測器に飛び込んで来る電子やイオンを方向毎に数える必要があります。スピン衛星の場合,衛星のスピンに垂直な面内一次元の視野を持っていればあとは衛星自体のスピンを利用して3次元のデータを得ることができますが,三軸制御衛星の場合にはスピンを利用できませんので観測器自体が広い視野を持つ必要があります。図1はスピン型衛星用に開発したプラズマの観測器の例です。観測器上方の丸い2枚の板の間から荷電粒子が入射しますが,この観測器は一周360度の視野を持っています。これは1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」に搭載したもので,太陽風プラズマや火星周辺プラズマの観測を行います。図23軸制御の衛星搭載用に開発したプラズマ観測器の例です。これは2005年打ち上げ予定の月探査周回衛星「セレーネ」に搭載する為に開発したものです。観測器の上部には観測器の上方から入射する電子・イオンの入射方向を選択する為の電極があり,観測器上方の半球面の領域から入射する電子・イオンを測定することができます。


図2 三軸制御の衛星搭載用プラズマ観測器


 将来的には,観測器の性能を現在の物より飛躍的に向上させる必要があります。現在我々は地球磁気圏観測衛星として10年前に打ち上げられた「ジオテイル」衛星を運用しています。この「ジオテイル」による地球磁気圏尾部の観測によって地球磁気圏に関する様々な新しい描像が得られたのですが,同時に新しい疑問も生まれてきました。これらの疑問を解明する為に我々は現在,次期磁気圏衛星の検討を行っています。この次期磁気圏衛星で行いたいことの一つは,電子観測の時間分解能を従来の約1000倍にすることです。「ジオテイル」衛星の観測によって地球磁気圏尾部でイオンの果たしている役割はかなり明らかになってきました。ところがイオンの約1/1000の質量しか持たない電子についてはイオンの約1000倍の時間分解能で測定しないとその役割を明らかにすることができないと考えられています。そこで,次期磁気圏衛星では電子の地球磁気圏尾部での役割を明らかにするために,約10ミリ秒という高い時間分解能を持ったプラズマの観測器が必要となります。これ程高い時間分解能を持ったプラズマ観測器は未だ世界のどこを探しても存在しません。我々はこの観測器の開発を数年以内の完成を目指して本年度から開始しました。今後,時間分解能を向上させるだけで無く,質量分解能の向上,測定可能エネルギー範囲を増やすなどの開発項目一つ一つに挑戦し,究極のプラズマ観測器を完成させるべく奮闘しています。

(さいとう・よしぶみ) 


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