宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > トピックス > トピックス > 2012年 > 最遠のX線ジェットの発見

トピックス

最遠のX線ジェットの発見

JAXAインターナショナルトップヤングフェローのL. Stawarzと研究チームの研究成果が「アストロフィジカルジャーナル・レターズ」2012年9月1日号に掲載されました。以下はその日本語訳です。

地球から124億光年離れた超巨大質量ブラックホールから吹き出すX線を放射するジェットがNASAのチャンドラX線観測衛星により検出されました。これはこれまでに観測された中で最も遠いところにあるX線ジェットであり、初期宇宙における超巨大質量ブラックホールの成長に伴う爆発的な活動現象の理解へとつながります。

このジェットはGB1428+4217(あるいは短縮してGB1428)と呼ばれるクエーサーによるものです。銀河の中心にある巨大ブラックホールは高速で物質を飲み込み、クエーサー現象を引き起こします。ブラックホールに粒子が落ち込む際に放出されるエネルギーにより、強い放射とほぼ光速に達するような速度で吹き出す高エネルギー粒子のビームが生成します。このような粒子のビームは磁場や周囲にある光子と相互作用し、放射で見えるジェットを生成します。

「われわれは興奮しました。なぜなら、これが最遠のX線ジェットだということだけでなく、初期宇宙においてX線ジェットそのものがほとんど知られていないからです」と、この成果の論文の筆頭著者であり、ワシントンDCの海軍研究所で研究する米国科学アカデミーのTeddy Cheungは語ります。

クエーサーからジェットに含まれる電子が放出される際、電子はビッグバンの名残の宇宙背景放射の中を通過します。超高速の電子がこれと相互作用すると、宇宙背景放射のマイクロ波がX線へと変換されます(逆コンプトン散乱)。

この論文の共著者の一人でJAXAインターナショナルトップヤングフェローのLukasz Stawarzによると、X線の強度はブラックホールから電子が放出される速度などに依存するため、GB1428のジェットのようなものの発見を通じて、超巨大質量ブラックホール周辺の環境やビッグバンからそう時間の経っていない時期のホスト銀河の状態についての手がかりを得ることができます。

今回観測できたのは、宇宙の年齢が13億年(現在の年齢の10%以下)のときのクエーサーの姿です。この時期の宇宙背景放射は現在よりも1000倍以上も強いため、ジェットも現在のものに比べてだいぶ明るくなります。この効果により、距離によって暗くなる効果が幾分か軽減されます。

共同研究者でハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAneta Siemiginowskaは、「自然にもたらされた増光効果のおかげで比較的短い観測時間で検出できたのは幸運」と語ります。

ジェットからX線が放射されるしくみとしてはほかの可能性(電子が磁力線に巻き付くように運動することで生じるシンクロトロン放射)も考えられないことはありませんが、X線放射が非常に強いことから、宇宙背景放射が高エネルギー粒子による逆コンプトン散乱を受けてX線に変換されたのだろうと研究チームは考えています。

GB1428からのジェットの発見以前には、最遠のX線ジェットはこの研究チームが発見した122億光年と120億光年の距離にあるものでした。GB1428によく似た形状のジェットはVLAによる電波観測でも検出されています。

これら3つの、ごく遠方のX線ジェットを生成する粒子のビームは、より近傍にある銀河からのジェットに比べてゆっくりと運動しているように見えます。これはおそらく、ブラックホール周辺から放出された時点でジェットのエネルギーが比較的低いか、あるいは周辺環境の影響でより大きな減速を受けているためだと考えられます。

GB1428のジェットの長さは少なくとも23万光年(銀河系の直径の約2倍)あると考えられます。チャンドラのデータでもVLAのデータでも、ジェットはクエーサーの片側のみが見えています。過去に得られた証拠とあわせると、このことはジェットがほぼ地球に向かって吹き出していることを示唆します。このような向きのとき、地球に向かってくる方のジェットに対してはX線や電波の強度は増幅され、逆方向のジェットは見えなくなると考えられています。

また、地球のあちこちに設置された電波望遠鏡を組み合わせること(VLBI観測)により、GB1428のジェットのより細かな構造が調査されました。この観測で、X線ジェットと同じ方向に、長さ1900光年ほどの小規模なジェットが存在していることが明らかになりました。

この成果は米専門誌「アストロフィジカルジャーナル・レターズ」の2012年9月1日号に掲載されました。

原著論文:
"Discovery of a Kiloparsec Scale X-ray/Radio Jet in the z=4.72 Quasar GB 1428+4217"
「赤方偏移4.72にあるクエーサーGB 1428+4217からのキロパーセクスケールのX線/電波ジェットの発見」

研究チーム:
C. C. Cheung(海軍研究所)
L. Stawarz(JAXA宇宙科学研究所)
A. Siemiginowska(ヤギェウォ大学)
D. Gobeille(南フロリダ大学)
J. F. C. Wardle(ブランダイス大学)
D. E. Harris(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)
D. A. Schwartz(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)

原文:新しいウィンドウが開きます http://www.nasa.gov/mission_pages/chandra/news/xray_jet.html

124億光年彼方のクエーサーGB1428から放出されているX線ジェット(X-ray: NASA/CXC/NRC/C.Cheung et al; Optical: NASA/STScI; Radio: NSF/NRAO/VLA)

2012年12月7日

ISASメールマガジン

最先端の宇宙科学に従事している研究者の、汗と涙と喜びに満ちた生の声をお届けするメールマガジンに、あなたも参加しませんか?詳しくはクリック!