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再使用ロケット燃料挙動の研究がAIAAベストペーパーアワードを受賞

アメリカ航空宇宙学会(AIAA)から、昨年発表した液体ロケットのタンク内の燃料や酸化剤の運動解析に関する研究“Numerical and Experimental Investigation on Sloshing in Rocket Tanks with Damping Devices”(姫野武洋・渡辺紀徳・野中聡・成尾芳博・稲谷芳文・青木宏)が最優秀論文に選出され、2008年7月20日〜23日に米国ハートフォードで開催された The 44th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference(第44回航空宇宙推進連合講演会)にて表彰されました。昨年度に発表された液体推進分野の論文の中から、優れた1件に対して与えられたものです。

この研究は東京大学航空学科の姫野、渡辺先生との共同研究で、宇宙研側は再使用ロケットの打上げや帰還飛行の際に考慮すべきタンク内の燃料や酸化剤の大規模運動を正しく予測するために、RVT実験機の研究の過程で始めたものです。この5年くらい、姫野先生の大変形自由表面流体解析と我々の実験機の飛行とモデル実験などを組み合わせて行っています。これは宇宙工学委員会のワーキンググループの戦略研究として大学共同利用の枠組みで実行され、今後とも継続的に発展させ再使用ロケットの研究開発に大いに貢献するものと考えています。研究の実行における宇宙研と大学の良い関係を、今後とも継続したいと思っています。

受賞理由は、「再使用」という新しい土俵で課題を見つけて解析と実験で解決する、というストーリーがよかったのだそうです。まあ、じみ〜にしぶとくやってると、たまにはエエこともありますね。

宇宙航空システム研究系 教授 稲谷 芳文

AIAA Joint Propulsion Conferenceで表彰される成尾、姫野、野中(左から)

AIAA Joint Propulsion Conferenceで表彰される成尾、姫野、野中(左から)

研究の概要

繰り返し飛行が可能な再使用ロケットは液体酸素と液体水素を推進剤として使用するロケットです。打上げや帰還飛行、エンジンの再着火による着陸など、再使用ロケットは飛翔中にさまざまな加速度環境におかれます。そのため飛翔中にはタンク内の液体推進剤が大きく揺れ動くことになります。これをスロッシングと呼びます。スロッシングは機体の姿勢制御に影響を与えるだけでなく、スロッシングにより液体内に取り込まれた加圧ガスがエンジンに供給されるとエンジンの破損につながりかねません。そのようなことを防ぐためにはスロッシングをできるだけ抑える必要があります。飛翔中にタンクの中で液体推進剤はどのような運動をするのか、液面の挙動を抑えるための邪魔板などの効果がどれほどのものか、液体挙動を適切に予測するため、実機タンクの縮小模型による地上実験および自由表面流の三次元数値解析を行いました。

実験は東京大学の姫野先生・渡辺先生の研究室で行われました。宇宙研側で試作した直径20センチほどの透明アクリル製のモデルタンクを、ステッピングモータを使用した姫野先生自作の加振機に載せて動かし、中の液体(水)の運動を高速度ビデオカメラで捉えました(図1)。

図1 加振機と模型タンク

同時に、三次元物体適合格子を用いて、対応する数値シミュレーションを試みました。計算では、理想気体の空気と非圧縮液体の水を作動流体としたうえで、実験と同じ加速度履歴を入力しています。計算でも、波頭形状、液体がタンク頂部へ達する様子、それ以降の砕波現象など、対応する実験結果が良く再現されています(図2動画、図3動画)。

図2 数値解析結果

図3 実験結果

また、スロッシングを抑制するための邪魔板(バッフル板)をタンク内部に装備した場合についても、実験と数値計算の両面から詳しく調べました(図4動画)。

図4 数値解析結果(バッフル板あり)

これらの研究成果は、今後の再使用ロケットの推進薬管理に関する研究開発に大きく貢献することでしょう。

2008年9月11日

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